07
縺れる足で何とか綾部を追い掛けた。動かしにくいこの体が、自分の体でないような気がした。体全体で、あの場所に再び行くのを拒んでいるようだった。あの場所……友達を埋めた場所に……。
綾部に追い付いた時には彼はもう件の場所を掘り返していた。彼の何時も持ち歩く鋤がこんなにも憎く感じたのは初めてだ。
「止めて……!」
もう一度見たくなんてない。突き付けられても現実なんてとうに直視している。私が殺した、それで充分でしょう?これ以上、見るべきものなんてないの。
私の言葉で彼が掘り返すのを止めるはずがなかった。その場に立っていられなくて私は両手で顔を覆い、崩れるように座り込んだ。
「名字さん。」
手を退けぬまま首を振った。
きっと綾部はあれを掘り返してしまったのだ。あれを私に突き付けようとしているのだ。
綾部が何を言うのか怖かった。何も聞きたくなどない。何も見たくもない。
「見て。ちゃんと、見て。」
何度も首を振る事でしか意思表示が出来なかった。口を開いてしまえば、むせび泣いてしまいそうだった。
それでも綾部は許してくれず、私の手を掴んで無理矢理顔から引き剥がした。きっと綾部は私の顔を覗き込んでいるのだろう。頑なに目を開かない私にはわからないが。
不意に唇に柔らかいものが触れて、予想以上に近くに居た綾部と目が合った。そこで私は思わず目を開けてしまった事に気が付いた。
今のって……。
「真実を、見て。」
今唇に触れたものが何なのか考える隙も与えられず、彼が掘り返した『あれ』を突き付けられた。
それは、友達の死体などではなかった。
20100208
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