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04


目を覚ますと珍しく心配そうにしている綾部の顔が見えた。
どうやら此処は保健室のようだ。あれ、私どうしたんだっけ……?綾部と食堂に居て、それから……何か言われたような気がするけど……よく思い出せなかった。

「名字さん、……ごめん。」

何よ、それ。貴方を殺そうと思っている私に謝る事があるっていうの?……調子が狂う。

「でもちゃんと向き合わなくてはいけない、でしょう?」

何、がだろう。……わからない。

「……部屋に帰る……。」
「送るよ。」

男子禁制のくのたま長屋に入って大丈夫なのだろうかと思いつつ、勝手について来るので放っておく事にした。偶然にも誰も会わず部屋に辿り着いたので咎められる事もなかった。

「……有難う。」

自分でも何故お礼を言ったのかわからなかった。私はこの男を殺そうと考えている、のに。綾部も少し驚いているようだった。
……そうだ。

「南蛮のお菓子があるの。寄って行かない?」
「誘ってるの?」
「かもね。」

色でも何でも使ってやろうではないか。殺す為に。
微笑んで手を引くと、綾部はそのまま素直に私の部屋に入って来た。

「私を殺したいんでしょう?」

綾部は何時もと変わらず表情を変えずに言った。何を考えているのかわからない彼はやはり、苦手だ。

「……わかっているならどうして入って来た?」
「誘われたから。」

言うと同時に彼は私を押し倒して来た。両手を押さえ込まれたが、下手に抵抗するつもりもない。冷静さを欠けた方が、負けだ。

「三禁、わかってる?」
「関係ないよ。ああでも同室の子に見られたらそっちが困るんじゃない?」

そう言われて、此処に居ない同室の茶色い髪の彼女の顔が浮かんで、……消えた。
何か黒くて醜いものが体の中を巡っているような気がした。気持ちが悪くてそれに気付かない振りをしたかったけれど、目の前の彼がそうはさせてくれないような気がした。

「貴方は……私の何を知っているというの?」

声は震えてしまったかもしれない。この男は、綾部喜八郎は何もかも知っているように感じてならなかった。
一瞬、噤んだのは言うのを躊躇ったようにも見えた。

「……名字さんと同室の子が……昨日の実習で死んだ、って事はね……。」

やはり彼は知っていたのだ。予想はしていたけれど、認めるのが怖かった。

そうだ。彼女は死んだんだ。昨日、あの時に……。だから私は……。
違う。違う、それだけじゃない。友達はただ死んだんじゃない。

「私が、殺したの……。」

これが私の犯した罪だ。




20100122

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あきゅろす。
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