サバイバル演習2
「忍びたる物─
基本は、気配を消して隠れるべし」
まあ、そりゃ忍だから普通だよな。
忍が隠れず堂々と相手に挑むなんてそんな可笑しな話聞いたことなんてないよ。
と、言いたいところだが…
どうやら彼は普通じゃないようだ。
「いざ、尋常に勝〜〜〜〜負!!」
サスケとサクラは気配を消して隠れている一方、ナルトは清々しいほどにカカシに姿を現している。
その姿に名前は呆れすぎて突っ込みを入れる気にもならなかった。
「しょーぶったらしょーぶ!!」
カカシはナルトの馬鹿みたいに堂々した態度を見て同じく呆れていた。
「あのさァ…
お前、ちっとズレとるのォ…」
その様子を気配を消して隠れながら見ていた他二人は、ナルトに対して"馬鹿"の二文字を思い浮かべた。
「ズレてんのはその髪型のセンスだろー!!」
ナルトはカカシにまた馬鹿にされたことに怒り、飛びかかっていく。
これも隠れることなく、術を使うことなく向かっていくナルトは本当に忍になる気があるのか…と、見ていて疑問を持った名前であった。
しかし、カカシが腰に付けているポーチから何かを取り出そうとしている動作を見たナルトは距離を再び取った。
「お、ただがむしゃらに相手に向かっていく訳ではないのか。よかったよかった…」
名前は普通の事が出来るナルトを見て、失礼だと思うがホッとした。
「忍戦術の心得その1
体術!!…を、教えてやる」
カカシはナルトにそう宣言するとポーチに入れていた手を出そうとする。
ナルトはそれに対してより一層警戒をする。
隠れている二人も姿は見えていないが、カカシの様子を何処かで見ていることは確実なハズなので、きっと警戒はしているであろう。
「(でも、体術って忍者組み手のことだろ?
なのに武器でも使うつもりなのか?)」
名前は疑問を持つが、その疑問は次の瞬間にどこかにぶっ飛んでいったのであった。
そう、カカシがポーチから出したのは…
本であった。
ここからでは文字がよく見えないが、ポーチに入れている位だ。きっと愛読書なのであろう。
「いや、今はそんなことはどうでもいいか」
よく余計なことを考える悪い癖を持つ名前は、そこに浮かんでいたであろう考えや妄想を振り払うかのように手を振る。
そんな事をしている一方で、ナルトはいまいち状況を飲み込めずカカシの本を凝視したまま立ち尽くしていた。
「……?どうした、早くかかって来いって」
「…でも…
あのさ?あのさ?
なんで、本なんか………?」
カカシはナルトの問いに愛読書を読みながら答える。
「なんでって…本の続きが気になってたからだよ。別に気にすんな…
お前らとじゃ本読んでても関係ないから」
「!!ボッコボコにしてやる…!」
カカシの言葉の意味がわからなかったナルトは一瞬空白の時間ができたが、言いたいことが理解できたようだ。
ナルトは怒りの頂点に達したようでカカシ目掛けて拳を振りかざす。
しかしその攻撃は容易くカカシに片手で止められる。
だがナルトは諦めず続けて蹴りを喰らわす。
が、カカシは伏せてそれを見事に交わす。
カカシは本からは目を反らしてはいない。つまり、見なくてもナルトの攻撃がどこからくるのか分かるのだ。
流石は上忍…と言ったところか。
「だあーっもうっ!!!」
ナルトは攻撃が一切あたらないのにさらに苛々し、また無鉄砲にパンチを繰り出す。
が、先程までナルトの目の前にいたカカシは忽然と姿を消し、ナルトのパンチは空を切っただけであった。
「あれ?」
「忍者が何度も後ろとられんな。バカ」
カカシはいつの間にかナルトの後ろにいた。
しかし、ナルトはそれに気づいてはいないようだ。
その様子を遠くから見ていた二人はカカシの様子がおかしい事に気づく。
カカシは先程まで本を見ながらナルトの攻撃を交わしていたのに、今は本を閉じているのだ。
しかしよく見ると、ただ本を閉じているのではない。
本を閉じている両手はよくよく見ると印を結んでいたのだ。
「(…あの手の構えって虎の印!?
え?……うそ…ナルト相手にいくらなんでもその忍術は!!)」
「(まさか…あの印は火遁の…
教師のヤロー、逃げまわるだけじゃないのか…)」
カカシの異変に気づいたのは二人だけではなく、名前にもわかった。
「あっ馬鹿っ!アイツ術使うつもりかよ!!
モロに当たったらヤベェじゃねぇか!!」
名前は急いで万が一の時の為の印を結ぶ。
「ナルトー!!!早く逃げなさいって!!!
アンタ死ぬわよォ!!!」
危険を察知したサクラはナルトに大声で危険を知らせた。
昨日ナルトのこと嫌いとか言ってたのに…凄く優しいなサクラ…見直したよ…
名前はサクラの優しさに涙腺が緩くなった。が、今はそんなことを考えている場合じゃないと気づき、真剣な表情に戻る。
ナルトはサクラの声に気づき、カカシの攻撃を避けようと慌てて回りを見回す。
しかし、カカシは待ってくれるほどそんなに甘くはない。
「遅い」
ナルトは背後から聞こえるカカシの声に気づき距離を取ろうとしたが、それより早くカカシは行動に移っていた。
死ぬ!!
そう思った名前は術を発動させようとした。
が、次の瞬間─
「木の葉隠れ秘伝体術奥義!!!
千年殺し〜っ!!」
「ぎぃやあぁぁぁあ!!」
ナルトは千年殺しを喰らい、近くにあった川に飛んでいき、そのまま勢いよく沈んでいったのであった。
『………』
術の名前は凄そうに聞こえる。名前だけは。
しかし、術自体はただのカンチョウである。
術もなにも、ただの普通より威力が強い(ナルトの悲鳴から確実ではないがそう察しがつく)カンチョウである。
その様子を見ていた三人はただただ呆れるだけであった。
カカシはナルトの相手を終えると再び本を読み始める。
「(ほとんど反則じゃないあの強さ
…どーしろってゆーのよ!)」
サクラは再びカカシの強さを見せつけられ、勝つ術を見つけることができなかった。
「(ったく、驚かせるんじゃねぇよあの野郎…
ナルトに大怪我でもあったら私の責任にされるんだからな。後で耳にタコが出来るくらい警告してやる…)」
名前は苛々し、こめかみに薄らと血管を浮き上がらせる。
「(に、しても…
他の二人はナルトと違って慎重なんだな。
全く動き出さないや)」
名前は退屈になりそうだと予想しだす。
バシュ!バシュ!
『!!』
いきなり川から手裏剣が2つカカシ目掛けて素早く飛んでいくのを見て、ナルトはどうやら無事だとわかり、ホっとした。
しかし、手裏剣は意図も簡単にカカシの指で止められる。もちろん本を読んだままである。
きっとナルトは川の中で悔しがっているであろう。
カカシはあの状態で本読んで笑ってる…
ナルトは、ただ遊ばれているだけ。
このまま他の二人が動かなかったら進展無しになりそうだなぁ…
名前はカカシみたいに暇潰しの本でも持ってくればよかったと後悔をした。
名前がうだうだと考えていると、川からナルトが戻ってきたのに気づいた。
びしょ濡れで先程より動きにくそうな上に、体力をかなり消耗しているようだ。
朝飯を抜いたこともあり、もともと万全な体調ではないのだ。辛いであろう。
「ホラ、どうした。
昼までにスズ取らないと、一人だけ昼飯抜きだぞ」
カカシの腰にぶら下がっているスズが同時に鳴るのを聞いたナルトは息切れをしながら喋る。
「ンなの分かってるってばよ!!」
「火影を超すって言ってたわりに元気ないね、お前…」
息切れをするナルトを見てカカシはそう言い放つ。
「くっそ!くっそ!
腹が減っても戦はできるぞ!!」
ギュルルルル…
確かにそうだが、さっきから腹の虫が煩いぞナルト…
「さっきはチット油断しただけだってばよォ!!」
「世間じゃ油断大敵って言うんだよね」
うわ、素晴らしい論破だ。逆にムカつく。
カカシはナルトに背を向けて本の読み歩きをする。
ナルトは体力が限界のようで座り込んだままである。
「(くそ!腹へって体が…
……けど…何が何でもスズ取らなきゃ
何がなんでも認められなきゃ!)」
ナルトはカカシの背を睨み付ける。
まるで獲物を狙う肉食獣のように…
「(何がなんでも
忍者にならなきゃ)」
次の瞬間、川から沢山のナルトが現れる。
カカシは川の音に気づき振り向く。
特に驚いてはいないようだ。
「へへーん!!お得意の多重影分身の術だ!!
油断大敵!今度は一人じゃないってばよォ!!」
ナルトは勝利を掴んだかのような笑みして得意気にカカシの言葉を返す。
「(1、2、3……8人!
…なんだあの術は…)」
「(なに?
残像じゃない、全部実体って?)」
二人は多重影分身の術を初めて見て驚きを隠せないでいた。しかも、ただの分身ではなく影分身である。
驚きを隠せなくて当たり前か。
「ん!分身じゃなくて影分身か…
残像ではなく、実体を複数作り出す術…」
下忍じゃ修得するのが難しい忍術をナルトが使っているのを見て驚きはしない。
なぜなら、カカシはミズキの封印の書を持ち出した事件を知っているからである。
「(ナルトの奴、結構あの術使ってるんだな。十八番ってやつか)」
名前は滅多に御目にかからない多重影分身の術を再び見ることができて嬉しくなり、木陰から身を乗り出してその様子を見ていた。
「お前の実力からしてその術、一分が限界ってところだろ…
御託ならべて大見得切ったって所詮ナルト…
まだその術じゃ俺はやれないね」
カカシは真っ向から向かってくるナルトの影分身達に驚きも焦りもしない。
やはり、カカシには勝てないのか…
全員がそう思った。
が、
「!」
いきなり後ろから強い力で押さえつけられ、カカシは目を見開いて驚いた。
背中にはナルトが引っ付いていたのだ。
「な…なにィ!!!」
その光景を見た他三人はカカシ同様、驚いていた。
ナルトがカカシの後ろを取るなんて誰も予想だにしていなかった事態を目の当たりにしたのだ。
驚くことしかできない。
「へへ…忍者ってのは後ろ取られちゃダメなんだろ…カカシ先生ってばよォ!!!」
ナルトの影分身二人はカカシが逃げることができないように両足にしっかりとしがみつく。
「影分身の術で一人だけ川下からこっそりあがって、裏手にまわりこんどいたんだってばよ!
さっきケツやられたぶん!せっかくだからここで一発…」
「(ナルト!!けっこうやるじゃない!!)」
「陽動作戦ってヤツか…」
二人はナルトの勝利を確信し、笑みを漏らす。
ナルトは高く飛び上がりカカシ目掛けて、渾身の一撃を決めようと腕を大きく振りかざしたのであった─
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