a 強い西日の季節が過ぎ去り、最近は本当に肌寒い日が続く。 頬を掠める北風は、丸まったあいつの背中を余計に縮込ませた。 季節は、冬だ。 「へ、くしッ」 陽がだいぶ傾いてしまっている帰り道を、俺達2人は歩いていた。 「風邪?大丈夫?」 「あー、大丈夫じゃね?」 んー、と少し頭をひねりながら頷いたあと、とっておきの悪戯を思いついた小さな子供のように早川は笑った。 「どうした?」 「ねぇ、少しだけ屈んでくれない?」 「…なんだよ」 幾分眉を顰めながらも頭の高さを早川に合わせると、 「はい、これでさっきよりは寒くないでしょ?」 「あ、りがと」 ぐるぐる巻きにされたマフラーからは早川の匂いが、少し。 だから、少し照れくさい。 「でも、これじゃお前が寒いだろ?」 制服に防寒するものがマフラーだけだったのだから、華奢な体には寒すぎだろう。 そういや、あまり風邪は引かない、とは言っていたものの、気が気じゃない。 「大丈夫!!寒かったら永田君の後に隠れるしさ。」 「俺は壁か…」 「えへへー」 まあ、実際、俺は早川より15センチくらい?でかいけどさぁ。 そんな風に笑われると怒れないのも、事実。 こいつに対して…弱い、とつくづく思う。 「マフラーは明日返してくれればいいから。風邪引いて休まれると俺が寂しいしね。」 「さんきゅな。でも、そんなやわじゃねぇよ。」 右手で早川の頭をポンポンと叩いて、軽く流した。 …照れ隠し。 もちろん、あの鈍そうな早川が気付くわけないと思うけど。 「じゃあ、また明日ね。」 右手に曲がった早川の背中が小さくなるまで見送った。少しだけ、振り返らないかな、なんて思ったりしながら。 また、明日。 「うぅ、さっぶ。」 ぐるぐる巻きにされたマフラーに顔を埋めて、また来る明日を考えた。 空は満点の星空。 明日の朝は冷え込んで、…でも、青空が続くだろう。 → [戻る] |