7 ◆ その後、ニールは何度も刹那の元を訪れるようになった。さして疲労していないような時も、予約を入れるのを忘れることはない。 刹那は、そんなニールを歓迎はしないまでも、嫌悪を感じる事はなくなった。 それどころか、一筋の興味のようなものが芽生えた。 治療をするために目の前に晒された大きな背中。まるで西洋の象牙細工のような――美しく研ぎ澄まされ、完成された肉体。 この男のコンディションが手に取るようにわかる。 両の掌を介して、伝わる、触れる。 刹那は僅かな違和感を覚え、ニールに問うた。 「…痩せたのか。」 「え、ああ、まあちょっと…」 ニールは内心穏やかではなかった。最近は自分の仕事の方も忙しく、確かに少し痩せた。しかし、それは体重にしてみれば微々たるものでしかなく、本人にもそこまで意識させる減少ではなかった。 その微弱な減少を、刹那によって見破られたのだ。 探っているのはこちらなのに、逆に探られている気がする。こちらの企みなど、とうに見破っているんだ、と声無き声で囁き掛けられる。刹那のその手が、その瞳が、その存在が、ニールの心臓をきりきりと締め付ける。いつの間にか、何故自分がこうも通っているのかわからなくなってきた。 敵であるのはわかっている。俺は“偵察の為に”ここに来ている――来ていた筈だった。 背中ごしに感じるもう一人の人間。呼吸音と掌の体温。 あの鋭い瞳が、俺の背中を見ているのだろう。あの引き絞った唇の隙間から、吐息が漏れているのだろう。あの褐色の手が、背中に延びているのだろう。 刹那という存在に触れたい。もっと深くまで知りたい。アイツが隠している素顔が見たい。 深みに嵌まるように、この男に惹かれていた。 足掻けば足掻くほど沈んでゆく。 抜け出すにはもう、手遅れだった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |