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しかし体勢的に刹那の顔が嫌でも視界に入る為、ついにニールは瞼を下ろし、これ以上彼を見ないようにした。


オイルを拭き取り終わると、刹那は普通のマッサージを再開した。

ふとニールの表情を伺うと、まるで眠っているかのように、静かにアイスブルーの瞳を閉じていた。
たまに眠ってしまう客はいるが、彼もそうなのだろうか。少し痩せたようだし、疲れているのかもしれない。
刹那はニールが寝ているのかどうか図りかねて、そっと呼び掛けてみた。

「ニール…」

ニールは起きていたが、敢えて呼び掛けには応えなかった。今目を開いたら今度こそ細い理性の糸が、プツンと切れてしまう自信があったからだ。

刹那は、ニールが眠ったのだと認識した。眠ってしまった客にマッサージを続行するのは良くないと、彼は男の胸から手を離した。
先程までは仕事の顔だったが、ニールが眠ったとわかると、その堅い姿勢を少しだけ崩した。
改めて眠る男を見た刹那は、その情景にはっとした。

室内の淡い照明に照らされて暗闇に浮かび上がる美しい肉体。アイリッシュの白磁の肌に、彫像のように見事に引き締まった筋肉。

刹那は吸い寄せられるように、深く刻まれた眼窩を見つめた。男の顔にかかった長い前髪を彼を起こさないように払うと、その美しさに思わず溜息をついた。
刹那はこの男の造形美に惹かれていた。美しいものを愛でたい、そんな欲求が刹那の中で頭をもたげる。



思えばそれは衝動だったのかもしれない。

刹那は彼が眠っていることを確認すると、神の造形物に触れるような冒涜感を覚えながら、ためらいがちにその鼻筋に唇を落とした。

と、その刹那。
眠っていた彼の瞳が、ひたと刹那を見つめた。


刹那はまるで冷水を浴びたように体温が下がるのを感じ、慌てて身を起こした。
しかしそれは叶わず、アイスブルーの瞳が細められたかと思うと、背中に大きな衝撃を受けた。
混乱する刹那は、ニールに上から覗き込まれ、ようやく自分が施術台に押し倒されていることに気付いた。


「刹那、今キスしただろ?」

恐ろしいくらいに感情の読み取れない声。

「ねえ、何でキスしたの?」

「………。」

無邪気な子供のように問うニールに、刹那は沈黙を貫き通すことしか出来なかった。


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