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『僕と私の世界の形』
僕と私の世界の形 4話
11時半…僕は喫茶店『幻永(ゲンエイ)』にウェイターとして居た。
まだ客は入っていない、店内はノイズ混じりのレコードの曲だけが流れている。
静かだ、僕は壁に寄り掛かり小さなライトの明かりを見ていた。
小さなライトの明かりと、ステンドグラスの窓から溢れる光だけの店内は薄暗かった。
「幻、暇だね。」僕はぽつりと呟いた。
「忙しい方が好きなのですか?」と幻は僕に聞いた。
「別に暇でもいいけど…」僕は幻と居るとテンションが狂うのか、僕の返事が毎回微妙な気がした。
「珈琲でも飲みながら待ちましょ。」と幻は言い。朝、僕が座っていた席の椅子を引いて僕に薦めた。
僕は他にする事も無く、薦められた席に座った。
幻は静かにカウンター内に入り、サイホンにお湯と珈琲の粉を入れ火にかけた。

珈琲が出来る頃、玄関のベルがカランと鳴った。お客が来たみたいだ。僕は席を直し、幻の居るカウンターへと歩いた。
「いらっしゃいませ。」と幻は慣れた感じにお客に会釈した。
「いっいらっしゃい…ませ。」幻に続いて挨拶したが、僕は自分の不慣れな挨拶に恥ずかしさを覚えた。
「今日は喫茶店ですか、幻。」と聞いた事のある声がした。
その声の方に顔を向けると、昨日の水干姿の童が居た。
童は僕を見て「おはようございます。新人の方。」とやっと声をかけてくれたのだった。
「おはようございます。」僕は今朝の不慣れな挨拶のリベンジといった感じに、丁寧に挨拶を返した。
「新人の方、この街をご覧になられましたか?」と童は僕に質問をした。
昨日とは違って会話ができそうな気がした。
「部屋の窓から街並みを眺めただけで…まだです。」と僕は、返事をした。
「では、新人の方。今日は早めに店を閉めてもらい、幻と辺りを見てまわるといい。」と童は親切な事を言ってくれた。
昨日の態度とは全く違っていた。
「はい。」僕は少し嬉しかった。
そして、童は珈琲を飲みながら、幻と他愛ない会話をして。
「ご馳走様でした。では、また来ます。」と言った後、僕をを見て「この街に早く慣れるといいですね。では、また。」と感じ良く会釈をして帰って行った。
本当に昨日の童とは別人のようだった。と僕は思ったが、感じ良く接してくれた事が嬉しかったので気にしないことにした。
1時〜3時頃の間に良い感じお客が来た。
…が、来るお客、来るお客と気になる処があった。「幻、お客さんに変な耳がついている…」僕は何かの仮装かと思いながらも、お客には聞こえ無いように小声で幻に話しかけた。
「はい?何ですか?聞こえ無いです。」と幻は言い耳に手をあてるみたいに頭の少し上に手をおいた。
僕は何か位置が変と思っていると、幻の黒髪の間から同じ黒色の猫耳が出て来たのだ。
「これ!」と僕は声を上げてしまったのだ。
「あっ‥忘れてた。」と幻はヤバイといった感じに呟き耳を隠した。
僕は呆然と幻を見てしまった。
「すみません。」とお客の声に反応し注文をとりに行く事は出来たが、頭の中は色々な耳でいっぱいになっていた。
3時半が過ぎた。客足は止まり、幻と僕の二人きりになった。
幻はチラッチラッと僕をうかがっているようだった。
「あの〜、耳が…」と僕は恐る恐る、幻から目をそらしながら聞いてみた。
「気のせいと言ったら怒りますか?」と幻は上目使いに僕を見て聞いた。
「怒りはしないけど…」僕は幻の上目使いに弱い。
「じゃっ、気のせいです。」と幻は開き直り、少し威張り気味に言いきった。
僕は「えっ」と心の中で思ったが、声になる手前で堪えた。
少し威張り気味で言いきった幻に、僕は少しイラッとしてしまったので、意地悪をしてやろうと思ったからだ。
「残念、幻に猫耳が付いていたら可愛いだろうな。」と僕は独り言のように呟いた。
「可愛い?」と幻は甘えた声でソワソワしながら、僕に聞いた。
「でも、気のせいなんでしょう?残念。」と僕は、幻がウズウズしているのを知っていて業と言った。
「う゛〜」と幻はじれったそうに、上目使いで僕を見ている。
可愛い、僕は幻の上目使いに本当に弱いみたいだ。意地悪をしてやるつもりだったが、僕の方が負けてしまったみたいだ。
「で、猫耳は本物なの?気のせいなの?」上目使いはズルイよと、ため息まじりに僕は言った。
「本物です。気味悪いですか?新人さんは慣れるまで嫌がるんです。」と幻はしょんぼり言った。
「可愛いから出して見せて。」僕は幻が可愛いく思えた。見た目もだが幻自信も。
「はい」と幻は嬉しそうに返事をした。それと同時に黒髪の間からピョンと猫耳が現れた。
「触っていい?」と僕は幻に聞いた。イヤと言われても触りたい程ウズウズしていた。
「はい、どうぞ。」と言い、幻は目を閉じ僕に耳を近づけてくれた。
僕は、幻の耳にそっと触れた。
「ふにゃっ!」と幻が声を漏らした。
「ごめん!痛かった?」僕はパッと手をはなした。
「ちっ、違います。えっと…」幻は顔を真っ赤にしてうつ向いてしまった。
違いますって事は触ってもいいのかな?
僕は、またそっと耳に触れた。本当に猫の耳だった。幻の黒髪もサラサラと指にふれる、気持いい。
そんな事を思いながら触っていると、幻が僕の胸に子猫の様に、顔を擦り寄せてきた。
僕は子猫の様を抱く様に、幻を抱きしめた。
ふと、僕は時計に目がいった。時計の針は6時29分をさしていた。昨日事を思いだす。
秒針が廻りきる頃、僕は眠ってしまうのだろう。
「幻、そろそろ僕は眠ってしまうかも。」
幻の頭に頬をのせ、僕は言った。
「はい、時間ですね。明日は街を案内しますね。」と言い幻は、僕の腰に手をまわしギュッと抱きついた。
「楽しみだね。じゃぁ、おやすみ。」僕は昨日と同じ眠気に襲われた。
「おやすみなさい。」と幻の言葉が風の様に通った。


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あきゅろす。
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