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『僕と私の世界の形』
僕と私の世界の形 2話
目を覚ますと、白い天井が見えた。見回すと壁も白い…僕は死んでしまったのか…と、思わせるほど静かな空間に居た。
頭上に窓が在るらしい、強い日射しがこの白い部屋を一段と白くする。
起き上がり、頭上にある窓から外を見た。
僕は夢町(ココ)に居た。
外を見下ろすと、昨日来た街の風景があったが昨日と少し違う気がした。と言っても、昨日の夕方に来て周りなんてあまり見ていないのだが…。
ぼんやりと街を見下ろしながら、懐かしい感じのする街だなぁ、来たことがあるのかな?など考えていると、何処からか香ばしい珈琲の薫りがした。
ベッドを降り立ち上がると寝間着をいつの間にか着ていた事に気が付く。いつ着替えたっけ?と一瞬思ったが、それよりも珈琲の薫りが気になり部屋を出た。
部屋を出ると、薄い暗い廊下だった。とにかく下に降りようと階段を探した。
たぶん、ここは昨日来た花屋だろうと思っていたが…昨日、外から見た感じより広い。遠くに明かりが見えた、階段の影も見える。
良かった、これで下に降りれる。下に行けば昨日の少年…?少年じゃない幻が居るだろ。何だかまどろっこしい感じだが気にせず、階段を降りた。
階段半ばで強い日射しが目に入り、目を細めて階段を降りた。
下に着いて、僕はハッと驚いた。昨日、花屋だったはずの店が喫茶店に見える。
僕に気付いた幻は爽やかに挨拶をした。
「おはようございます。」風のように僕をかすめて言葉が通ったみたいだった。
「おっ、おはよう…」幻に少し遅れて僕は挨拶をした。なんて不慣れな挨拶なんだと自分を恥じた。
幻は戸惑いながら「珈琲は飲めますか?」と僕に訊ねた。
僕は珈琲は少し苦手だったが断るのは悪いかなと思い「うん、薫りにつられて来たんだ。」と返事した。
「良かった。珈琲、あと2分位で出来るから。」と幻は微笑んで言った後、サイホンを火からおろし、白い泡立つ珈琲をヘラで回した。
理科の実験用具みたいなサイホンの上にあった珈琲がフラスコみたいな下の器へとゆっくり落ちていった。
静かな時間だった。
「今日は喫茶店?」と静かな空間に僕の口から言葉がこぼれた。
「そう、今日は喫茶店です。明日は…まだ決めてませんけど。」この店は毎日変わるのが当たり前といった感じの返事だった。
「不思議だね。」僕の言葉に「不思議ですか?」と幻が返した。
その幻の言葉を僕は返す事ができなかった。
フラスコみたいな器に入った珈琲が、白いカップにそそがれる。
「ぼんやり立ってないで椅子に座ったらいかがです?」
幻に言われるまで僕は気が付かなかった。
「あぁ、うん。」僕はしどろもどろな返事をしてカウンターの椅子に腰をおろした。
カウンター越しに幻と向き合うかたちになった。少し恥ずかしい…
「はい、お待たせ。」の一言と共に白いカップにいれられた珈琲が僕の前にあるカウンターにおかれた。
僕は手前に少しよせる、薫りがする…良い薫りだ。薫りだけなら好きなのに、味が苦手だ。あの焦げた苦味がどうしても好きに慣れない。
「クリームとお砂糖はいかがですか?」と言いながら、幻はカウンター下からクリームとお砂糖を出してくれた。
「あっ、いいよ。」と僕は断った。
クリームとお砂糖たっぷりの珈琲は好きだけど…似合わないと周りに言われてから、ブラックコーヒーで飲む事にしていた。
一口、珈琲を口にした…苦い。
「ブラックコーヒーで飲むんですか…眉間にしわをよせながら?」幻は不思議そうに僕を見ていた。
「僕が、珈琲にクリームやお砂糖を入れると似合わないから…」僕は変な答えだと思ったが言ってしまった。
「不思議ですね。」と幻は笑って言った。
そして、幻は僕のカップの上で手のひらを広げ何か呟いた。
「さぁ、もう一口どうぞ。」と幻は珈琲を僕にすすめた。
何も入れて無いようだったし、味は変わって無いだろうが…せっかく煎れてもらった珈琲だからと思い、僕は珈琲に口を付けてみた。
「あっ、美味しい。」思わず声が出てしまうほど美味しかった。
「でしょ。」と幻は嬉しそうに言った。
「何か入れたの?」と僕は不思議でしかたがなかった。
「愛情を少しだけ。」幻はゆっくり自分の珈琲を飲みながら言った後、「そろそろ、10時になりますね。今日、お店を手伝ってもらっていいですか?」と珈琲カップに口を付けながら上目使いで僕をみた。
上目使いの幻に見られ僕はキュンとした。
昨日は軽く話しただけで、僕は幻の顔すら見る事無く、いつの間にか寝てしまっていた。
こうして見ていると、幻はとても可愛い顔を、いや綺麗な顔をしていて惹かれてしまいそうになった。
「あの〜、手伝ってもらえます?」返事の無い僕に幻はもう一度聞いた。
僕は何を考えているんだと慌てて返事をした。
「いいよ、他にする事め無いし。」今考えていたことを気付かれないように平然を装い答えた。
「ありがとう。じゃあ、これに着替えて。」と、嬉しそうな顔をして幻は、後ろの棚から制服のような物を出した。
「了解。」と僕はそれを受け取った。


そして、僕の今日が始まった。


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あきゅろす。
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