[携帯モード] [URL送信]

『僕と私の世界の形』
僕と私の世界の形 1話
僕はココにいた。

白壁、緑の屋根、秋だというのに色鮮やかな花々が店先に並んでいる…
「きれい…」その一言を呟いた僕は、なぜココに居るねか解らないまま立ち止まっていた。
「お客さんですか?」と店から出てきた少年に声をかけられ、僕はハッと我にかえった。
「いいえ、すみません。」慌てて返事を返し去ろうとしたが、ココが何処かも解らず、何処に行けばいいのかも解らず、結局、立ち止まったままになってしまった。
「新人さんですね。」少年は僕を待って居たかのように話し始めた。
何も解らない僕は、少年の話しをただ聞くしかなかった。
「はじめまして、私は幻(ゲン)と申します。今日は花屋をしています。」
不思議な事を言う。今日は花屋をしています?では、昨日は?明日は?と気にはしたが僕は質問をしようとは思わなかった。
そう考えている間にも幻と名乗る少年は話し続けていた。
「今日は、眠里(ネムリ)23年の長月(ナガツキ)9日です。 この街は『夢町』と言いまして、今は夢見様が治めている街です。」
聞き慣れない年号に街の名…何故、僕はここに居るのだろ?
考え込む僕の顔を覗き込みながら、言いにくそうに幻は言った。「あっ‥あの…この街に慣れるまで、私の家で生活してもらいます。」

「はっ?」
僕は思わず声を出してしまった。今、会ったばかりの少年と同居?聞き間違いかと疑う前に少年は再度言ったのだ。
「あの〜、驚かれるのも解りますが…この街に慣れるまでの間ですので…私の家に居てください。」
僕の頭は混乱するばかりだ。
「何故、僕はここに居るんだ。何故?今、会ったばかりの君と一緒暮らさなければならないんだ。」
幻は少し考えた素振りを見せたが、返事は早く「あなたが、何故ここに居るのかは知りませんが、夢町の決まりですし…まぁ、全てそのうち解りますよ。」と返された。
僕は呆然としてしまった。考える事が在りすぎるのか、無いのか解らなくなるくらい混乱しているのだろう…ιそんな僕の後ろから声がした。
「こんにちは。幻、今日は花屋をしているのですね。」
その声に惹かれる様に後ろに振り返ると水干姿の童が僕を見上げていた。
童と目が合った。
「…幻、こちらは新人の方ですか?」童は僕を見上げながら、目が合ったにもかかわらず僕に一言も無く、幻と会話を始めた。
「まぁ、そのうち解る事。それより幻、ちょうど良かった菊の花を下さい。」
「はい、菊…あっ今日は重陽(チョウヨウ)だったか。」
「そうですよ。何も考えずに花屋をやっていたのですか?あなたらしいι」
二人は何かの行事の話しをしている様だったが…この街を知らない僕にとって解るわけのない行事だった。
「毎度ありがとうございます。」
幻の一言で話しが終わった事だけ解った。
水干姿の童は、来た時同様に僕に一言も無く帰って行った。本当に無愛想な童だ。と僕は思った。
気付けば日は暮れていた。幻はテキパキと店の片付けをしている。
「あの〜幻君、僕はどうしたらいいんでしょう?」
何をしていいのか解らない僕は幻に話しかけた。今日会ったばかりの少年を呼び捨てするのも失礼だと思い‘君’とぎこちなく付けてみた。
すると、「そろそろ6時半になりますね。寝る準備を頼みます。」寝る準備?まだ6時半だと言うのに寝るのか?子供だな。と、僕は思ってしまったが…
後に続いた言葉は意外だった。「あと、見た目で人を判断してはいけないですよ。こう見えても私は貴方より歳上ですから。」
「えっ!」どう見ても少年の幻の言葉は驚きを隠せなかった。
「君(クン)は失礼です。こう見えても1388歳、14回目の米寿です。」
僕は唖然としてしまった。この世界は僕の思考回路では足りない位、未知なる世界なのかもしれない。
思考回路をフル回転させたせいか、僕は突然、強い眠気に襲われた。
「君では無く、さんが正しいですが…そのまま幻でいいよ。」
「…」
言葉を返す事も出来ない位の眠気、気が遠くなる…
「あっ、もう6時半か。」
僕が座りこんでしまったのを見て、幻は知っているかのように呟いた。そして…
「おやすみなさい。」と、僕に囁いた。
その言葉は風が通るように僕の意識を飛ばしていった。


[次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!