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◆Saturday Night Fever(矢竜/ギャグ)






やくざ達の土曜日といえば軽薄な空気に気押されるようにして夜の歓楽街へと繰り出すものだった。
昭和33年の東京――某盛り場にて。
矢木圭次は下半身の自制がきかぬ程ガキではなかったが特に聖人でも不能でも無い。
そんな訳で矢木はその夜、飲み屋だの連れ込み宿だのが建ち並ぶ怪しげな通りをフラりと歩いていたのだった。
細い裏通りには建屋の内側から漏れ出る明かりが切り絵の如く陰を曳いている。
(ガキの頃に見た紙芝居みてえだな――)
タバコの煙りを吹かしながら電灯に寄り添うように立つ娼婦達を眺めた。
女達はさながら紙芝居の登場人物のように観客である所の矢木をなまめかしい視線で見つめるのであった。
紙芝居といえば水飴と煎餅を思い出す。
それは、酒とタバコと女の匂いが立ち込める夜の街角には全く似つかわしくない思い出だった。
そんなふうに…郷愁に耽りつつ、ふ、と…上げた目線の先。
小さな間口から出てきた見知った人物を認める。
矢木の囲い主である所の竜崎である。
(竜崎さんじゃないですか)
目が合う。
目が合った刹那――竜崎はチラッと矢木から目を逸らせた。

(意味深…すぎやすぜ、竜崎さん?)
(まあ此処はこういう場所であるし、だいたい竜崎さんだってそういうコトをしたい時もあるでしょうがね!)

はっきり言って若干…気まずい。
矢木は竜崎の事が好きなのである。
「ふふ…竜崎さん…ひょんな所で会いますね…」
気まずさを押し隠すように冷静を装って声をかける。
「ああ…」
竜崎は言葉少なに答えた。
矢木は竜崎の傍に寄った。
主のキッチリ着込まれたスーツや締まったネクタイからは情事の名残は見受けられない。
そんな律義さが余計に矢木の劣情を煽る。
矢木は苦いタバコを路上に落として爪先で踏みつけた。
「あのな…矢木…」
竜崎の唇が何かを言いかけるのを塞ぐように矢木はその唇を奪った。
「んむ…」
食むように…貪るように…くちづける。
(なんか甘めえ…)
まるで紙芝居の時に食べた水飴みたいな…。
は、と…くちずけの戒めを解いた矢木が首をかしげた。
「竜崎さん…なんか食いましたか?水飴とか…」
「…」
竜崎は無言で自らが出てきた小さな間口を指差した。
そこにあったのは――

【甘味処/福】

「え…甘味…」
「あんみつだ…」
「は――?」
「土曜の夜は限定あんみつが出るんだよ」
「!!?」
聞けば竜崎は土曜の夜は欠かさずあんみつを食べに来ているらしい。
「おいコラ矢木、笑ってんじゃねえぞ馬鹿やろうが」
「いや…その…」
繁華街に甘味を食べに来る竜崎が可愛いだとかキスが甘かったのは蜜のせいか…なんて、口が避けても言えないので…。
矢木は頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。
「竜崎さんも土曜日は歓楽街で甘い蜜を楽しんでるようで安心しやした…」
「誤魔化すんじゃねえ〜っ!」






おしまい

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あきゅろす。
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