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◆仲井の事がちょっと苦手なアカギ(仲井/アカギ)






春の初めの水ぬるむころ…。
その日…アカギ(19)は風邪をひいて寝込んでいた。
(頭がいてぇ…)
うっすらと目を開けると天井の木目が歪んで見える。
アカギが現在ねぐらにしている民宿は東京郊外のひっそりとした木造住宅の二階だった。
1日、2日…ぐらい寝込めば回復するだろう…。
アカギはゴロッと寝返りをうった。
昨日から何も食べていない。
(食欲ねぇし…)
アカギは何も食べずに、このまま数日ほど眠って風邪を治すつもりだ。
いままでずっと…そうしてきたし、これからもそうするだろう。
トントントントン、と階段を登る足音が聞こえる。
アカギは小さく首を傾げて小さな部屋の引き戸を見つめた。
ガラガラ…
「見つけた…」
「…」
アカギは引き戸を開けた人物をぼ〜っと眺めた。
「だれ…?」
本心からそう思った。誰だこいつ。
「くくく、相変わらず煙にまくのが上手かね…のう、アカギはん」
…。
…。
(…はっ!)
アカギは、ハッ!と小さく目を見開いた。
「お前は…仲井…」
以前…なんかよくわからないが…麻雀勝負をふっかけられたことがある…仲井という男だった。
アカギにとって仲井は、ねちっこい麻雀を打つ変なやつ…という認識である。
間違いでは無い。
「あんさんが風邪ばひいたち聞いて…寝首ば獲りに来たったい、こすいようやが勝負せんね。卑怯もクソもなかろー」
そう言ってニヤリと笑う仲井であった。
(はぁ…)
なんか…疲れる…。
どうも仲井はアカギの想像の外にある行動をすることがある。
ちょっと苦手である。
「あのさ…」
アカギは小さく言った。
「なんね?」
「帰ってくれねぇかな…」
「…」
し〜ん…。
アカギは体調が悪く麻雀を打つ気分では無い。
と、いうよりそもそも体力の消耗が激しく、体が動かないのである。
体が動かない、と告げると仲井は信じられない…というふうな表情でアカギを見た。
アカギはジッ…と仲井を見返した。
仲井は眉をひそめた。
「そげん体調がわるいとぉ…ちゃんと食っとるん?」
「食っては…いない…」
「はぁ…?食っとらんと?」
なんかもう、本当に馬鹿馬鹿しいものを見た、というような目で仲井はアカギを見下ろした。
仲井は立ち上がって、呆れたように首を振りながら部屋を出ていった。
流石にこの"しぶとい"男も諦めてくれたようだ。
アカギは静かになった部屋で目を閉じた。

トントントントン…
階段を登る音が聞こえる…。
ガラガラ…
「…」
仲井が足で引き戸を開けるのが見えた。
彼は盆に茶碗を乗せて立っていた。
「なに…」
「卵酒たい。風邪ば時にはこれが一番たい」
アカギは風邪の時は何もせずに…ひたすら眠り休養をとり…いままでずっと、そうしてきた。
「はよう治しんさいって。おいが病み上がりを穫るたいね」
「…」
アカギはジィッ…と茶碗を見つめて、それを口元に運ぶ。
熱い…酒がジワリと内腑に広がる。
「あのさ…仲井純平」
「ん…」
「オレは麻雀する気ねぇよ?」
仲井はくくく…と笑ってギラ…と目を光らせた。
「また…そういう…おいの目は誤魔化せんたい…まあええ…時間はタップリある…」
「…?」
「クク…さっきおいも、この民宿ば、部屋とってきた…」
「…!」
(はぁ…)
アカギは布団に横になり、僅かに歪む視界を薄く閉じた。
初めて内に入れた卵と酒の熱に、アカギは、ほぅっ…と溜め息を吐く。
仲井純平…抜け目ない男…。
いままで…と、これから。
さて明日はどうなることやら…とんと想像がつかねぇ。




おしまい

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あきゅろす。
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