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◆東西戦にて…健の話(金光/健)






東西戦のまっただなか――そう、原田、僧我、天、ひろゆき、この4人が死闘を繰り広げていた緒戦。
金光は東西戦の舞台となった日本家屋の待機室に応援に駆けつけていた。
同じく応援に来ていたらしき健と一緒だった。
「そろそろ…行くか…」
一服した後…腰を浮かしかけた金光を察したのか、健が、あ…と声を出した。
「ん?」
金光は健を見た。彼は――少し気恥ずかしそうに身じろいだ。
「あの…おしょう。こないだの試合の時に言われたことなんですけど…」
こないだの試合とは健が原田に敗れたときの話だろう。
あの時、この少年はひどく落ち込んでいた。
「ああ、お前はよくやった…っていうのは本当だよ。たとえ負けても…」
「その…!」
そこで健は背筋を伸ばして膝の上にぐっ、と拳を握った。
「その…負けた、ちゅうんが問題なんです。負けたら…経過はどうあれ…」
金光はくすぐったい気持ちになった。
言いたいことは良くわかる…つもりだ。
「ふふ…よく頑張りました…で済ませるか済ませねえかは…お前さん次第じゃないか?」
「?」
つまりな…と、金光は健に茶をすすめながら煙草に火を点けた。
「そうだなあ"人間は考える葦"って言葉…知っているかい?」
「いや知りまへん」(即答)
金光は健の左手を取った。
その左手の掌は…先の試合のドサクサで大怪我を負っている。
傷口をグッ…と押さえれば、健はウッ…と、眉をひそめて唇を噛む。
「これ…痛いだろう?」
「あ…当たり前です…っ!」
なんだか可哀想なので金光は手を離した。
「つまり…傷が増えれば増えるほど人間は強くなれる、ということだよ」
健は…ハァ…と、気の抜けたような返事を返してまじまじと自らの掌を見つめていたがやがて何かを得心したように頷いた。
「なんか…わかったよーな気がします!」
雑草のように立ち直りの良い若者である。
金光は目を細めた。
あの時…健が原田に挑んだ試合の時に金光は僧我と対戦していた。
そして――僧我の役満に振り込んでしまった。
わしとしたことが…。
そのことで金光も少なからず落ち込んでいたのだった。
健を元気づけているつもりで…わしは自分自身を彼に投影しているのかもしれぬ。
(考える葦…か)
しみじみと腕を組んでいたら、健が抜けるように笑いながら言った。
「金光はん、僧侶の説教みたいなこと言わはるんですね〜」
「わしは僧侶だよ」
健はククッと笑った。
「麻雀狂いの僧侶なんて、エセやないんですか」
金光は目を瞑って健の左手をツイッ、と掴み上げた。
「あ゛、い…うっ!」
と、健が唸る。
その隣で茶を啜りながら金光は心から思うのだった。
健――お前は強くなるよ。






おしまい

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