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◆バレンタイン企画(安平)






バレンタイン?オレはそんなもので騒いだりはしない。
小中学生の娘じゃあるまいし…そんな菓子会社の戦略に乗せられたりなんか、しないんだよ。
by-平山幸雄



◆平山のバレンタイン



2月14日…昼間。
平山幸雄は安岡のアパートに寝っ転がって雑誌を読んでいた。
安岡は仕事に出かけている。警察の仕事だ。
平山の読んでいる雑誌の名前は『血のさけび』
血のさけびは婦人雑誌である。
安岡のアパートには変な雑誌がたくさんあって、けっこう読書が好きな平山はそれを読んだりするのだった。
(ふーん…菓子のレシピか…バレンタインデーってやつだな)
雑誌の冒頭にはチョコケーキやチョコクッキーやチョコマドレーヌなど…のレシピが並んでいた。
小麦粉、○○グラム…。ミルク、○○ミリリットル…。

「…」

うず…うず…。

菓子作りというものは計量や計算がものをいう…。
平山はウズウズしてきた。
なんか…作ってみたくなってくるのである。数字を見ていると…。



数時間後――



ち〜ん!



オーブンから取り出したクッキーは見事なものだった。
焼き加減は絶妙。大きさも均一…。
どこに出しても恥ずかしくない百貨店で売れるぐらいな良い出来ぐあい。
「ふふふ…」
平山は、ほくそ笑んだ。
菓子作りなんて、しょせん数理センス…!
同時進行で作っていたチョコババロアやチョコケーキなども卓袱台の上にズラズラッと並べる。
平山がその前に立って腕を組んで悦に入っていたところで、ガチャ、と玄関が開いた。
「あーつかれた」
と、言いながら帰ってきたのは安岡である。
「あ、安岡さんお帰りなさい」
「おー、平山…。って…ぬおおおっ!?」
驚愕の表情で卓袱台を見つめる安岡だった。
平山は本心から安岡に説明した。
「べつに安岡さんの為に作ったわけじゃないですよ」
事実である。
平山は平山の悦のために作ったのだから…。
しかし安岡は、ふふふ…と不気味な笑い声を立てた。
「平山…おまえ…可愛いな」
「…」
照れ隠しで言ってるわけじゃ、ねえんだけどな。
「か、勘違いしないでくださいよ!本当にオレは…」
安岡は、あーもう!わかったわかった!と言って平山の腕をつかみグイッと自分のほうに引き寄せた。

ぎゅううっ…!ちゅうぅ…

(ああ…っ!どうしてこうなるっ!)
オレは菓子会社の戦略に乗せられたわけじゃねーよ…!こんな…甘い…甘い…。
平山は顔を真っ赤にして目をつぶった。



クソ…でも、まぁ、いいか…。






おしまい

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