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◆雨宿り(矢竜)
※キスしてるだけ




勝負のカタがつき雀荘を出ようと思えばあいにくの雨で。
夜の闇にしとしと、と濡れた石畳を見やる。
「降ってますね」
矢木は雨足を強め始めた夜空に煙草の煙を吐きかけた。
竜崎が腕を組んでモルタルの壁に背をもたせかけながら呟いた。
「ちょっと待ってろ。車は手配してある」
「じゃ、待ちますかね」
矢木も竜崎の隣に腕を組んだ。
白いチカチカしたネオンサインと背中に当たる無機質な壁は思いのほかヒヤリとしていた。

秋の雨は――夏の間の熱を奪い去るような勢いで世界を冷却していく。

雀荘の奥から聞こえてくる牌をかき混ぜる音がやけに小さく遠く響いた。

それよりも耳につくのは雨音で。

(ああ――キスしてぇな。竜崎さんと)
無性にやりたかった。
隣に居たのが竜崎ではなく、例えば行きずりの女や若い恋人ならば――。
おそらくこんな場所でキスなどせずにホテルに連れ込んだであろうが。
「竜崎さん」
「ん…」
さり気なく向かい合わせになり唇を合わせる。
ちゅっ…
「ふ…っ」
「んん…」
お互いに唇を貪りながら…竜崎は矢木の背中に手を回した。
身体をまさぐるように抱きあう。
ただ、服は脱がない。脱げない。
「は…はあっ」
耐えられないと思った。その切ないような官能に。
矢木は眉間にシワを寄せた。

ハイヤーが到着するまでずっとキスを続けていた二人は、路上に車が止まるのを横目で確認した。
バタンと車のドアが開き、竜崎の部下がバツの悪そうな表情で降りてくる。
矢木は最後に見せつけるように竜崎の首筋を舐め上げた。
「は…っ」

ゾクリ…

雀荘を出れば生憎の雨で。
ザアザァと降りしきる。




終わり

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あきゅろす。
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