◆居酒屋でエスエム談義(藤沢組長×浦部) ここは、とある居酒屋。 浦部は藤沢組長の酒の相手をつとめていた。 適当に酒が進むと藤沢は手近にあった雑誌(なんか若向けのファッション雑誌みたいなもの)を読み始めた。 ぼーっとその様子を眺める。 浦部は明日の朝ご飯は目刺しを喰おう…とか他愛ない日常の事を考えていた。 藤沢はふむぅと何か考え込むようにした。 「どないしはったんですか?組長…」 「いや…わしって、Sかな…?Mかな…?」 えーと。 浦部は取りあえず愛想よくハハハと笑って答えた。 「どエス、ちゃいまっか?」 よく見たら藤沢組長が読んでいる雑誌は超有名エスエム雑誌「奇譚ク○ブ」である。 あまりにもの内容の過激さゆえに、数年前には発禁処分を受けたこともある雑誌だ。 浦部は嫌な予感を感じ、ぞくりと辺りを見回した。 心なしか、店内の照明が不気味にまたたいている気がした。 「わしにだって慈悲の心はあるんだけどなあ」 エスの人間はみんなそう言う。 「へぇー」 それ以上、突っ込む事を避けて無難な相槌を打つ。 得てして加虐趣味者のエスエム談義に対しては、踏み込まず&踏み込ませず…が鉄則である。 「ちなみに浦部はどっちなんだ?」 ギクッ…! 「わわわ、わいは…」 ノーマル…ノーマルやろ… しかし、この場合ノーマルと答える事は果たして得策なのかどうか。 下手に突っ込まれても困るし。 「わいはどっちかなぁ…あ…っ!その中綴じの写真、エロチックでんなぁ〜!」 「おおっ…この食い込みが堪らんのう…ふふくく…」 ククク…話題そらし成功である。 浦部は内心でほくそ笑んだ。 エロチックな写真は、緊縛された女の裸体であった。 ぞくぞく…。と寒気がする。 組長は食い込みが堪らんと言ったが、浦部は「拘束」という事象そのものに官能を覚えた。 うー…アカン! ぐい、と酒を飲んで目頭を押さえる。 そんな浦部の心境を知ってか知らずか、まあ恐らくは無意識に藤沢は好き勝手な事をのたまっていた。 「これじゃなあ…緊縛プレイとスカトロ…わしはスカトロは好かんが、浦部はエムだから…云々」 こら、いつの間にわいがエムになった!! 「え、わいはノーマルでっせ組長はん…ほら、攻める時は攻めますやろ、麻雀でも」 「うむ、エムの人間はみんなそう言う」 「冗談きついでんな〜」 「まあ、浦部よ。エスだのエムだのと言ったものは、性的性質などでは無い…と、そう思わんかね」 いや…性的性質の話をしとるんやで。 何を言い出すんや…また、このお人は。 「そりゃ、どういう…」 「エスエムというのは、関係性じゃ」 藤沢は、ぽん、と雑誌を居酒屋のテーブルに投げて置いた。 まるで、もう何もかもが解ってしまったというふうに。 浦部は、きょとんとしてテーブルに置かれた奇譚ク○ブを見た。 「関係性…でっか?」 「つまり、だな。浦部よ。お前はわしとの関係性においてのみエムであれば良いのだ」 「そりゃ…」 「わしの前でだけ犬になれ、わかったな?」 浦部はぐ、と息を飲んで、酒をあおった。 そして吐き出すような溜め息とともにハッキリと答えるのだった。 「――重々承知、しとりますわ」 おしまい 組長はん… [*前へ][次へ#] [戻る] |