05 「そんな顔すんなって」 もう一度、ラビの手が頭に置かれる。 拒まず大人しくしていると、髪を優しく撫でられた。 その手付きが兄に似ていて、今すぐ帰りたくなったのは、彼には内緒。 「…あたし、そんなに酷い顔してるかな?」 「空の飛び方を思い出せないって顔してるさ」 「なんだ、その喩え」 神田は怪訝そうな顔をしていたが、クライサには彼の言わんとしている事が何となく理解出来た。 まあ、確かにわかりづらい。 (頭の弱い神田では理解出来ないだろうね) 「考えても答えが出ないって事はあんだろ?忘れろとは言わないから、少し肩から力を抜くさ」 「ラビは抜き過ぎだよ」 え、マジで? 若干ショックを受けたように問い返し、ラビは神田へ目を向ける。 彼は即座に首を縦に振り、相手に更なる(精神的)打撃を食らわせた。 ユウがいじめるだの何だのと言いながら、ついでに泣き真似をしながら抱きついてきた彼を、どうしてか、引き剥がせない。 (……情けない) 思っていたより凹んでいるみたいだ。 これでは、ラビに心配されても仕方がない。 珍しく神田ですら気を遣っているじゃないか。 「……大丈夫だよ」 どちらとも目を合わせず、ありがとうと続けた。 それが聞こえた筈の彼らは言葉を返す事をせず、神田は溜め息をついて窓の外に目をやり、ラビはクライサを抱き締める腕に力を込める。 大丈夫。 今すぐは無理かもしれないけれど、ちゃんと顔を上げるから。 ちゃんと受け止めて、前に進むから。 『空の飛び方を思い出せないって顔してる』 (あたしは馬鹿だ) 出来ない事ばかり、あれこれ考えて、やるべき事を見失っていた。 手の届かない空ばかり見上げて、足を動かす事を忘れていた。 どうしようもない事を、どうにかしたいと思っている。 今も。 (同じ過ちを、繰り返さないと決めたのに) [*前へ][次へ#] |