06
「何、これ…虫……!?」
氷製のナイフによって縦に貫かれているのは、親指の第一関節程の大きさの、芋虫に似た姿をしたものだった。
不機嫌そうに顔を歪めたクライサが頷き、アクマへと目を向ける。
「あのアクマ、さっきの攻撃の時にこいつを傷口に入れてやがったんだよ。気付くのがもう少し遅かったら…」
「おまえの腕は腐ってボトリ。あとちょっとだったのにねぇ」
「腐っ…」
「そう。その蟲は私の分身でね、人間の身体に入れてやると、神経を食って内側から腐らせるんだ」
とっても良い趣味だろう?
笑うアクマに、クライサが舌打ちする。
相手の能力を知って剣を構え直すイルミナの横で、しかし彼女は身構える事なく俯いた。
隙を見せたら、また先程のように攻撃され、傷口から蟲を入れられてしまうかもしれないというのに。
「…そうだね、とっても悪趣味だね」
敵に集中しろと声をかけようとしたイルミナは、握り締めた両の拳をぶるぶると震わせているクライサを見て、ある事に気付いた。
「許可なく人の体に虫なんぞ入れやがって…」
途端、辺りに冷気が満ちる。
それがクライサのイノセンス、『氷釧』によるものだと知って、イルミナは一歩、彼女から離れた。
「アンタなんか泣いて土下座するまでボコボコにしてから全身全霊をかけてミクロレベルに破壊してやらぁ!!いや許可あったって絶対嫌だけどね!」
「…虫大嫌いなのよね、クラちゃん」
「そう!機械だからまだマシだけど、これが本物の虫だったらって思ってさっきから鳥肌立ちっぱなしなの!!」
ズビシィ!とアクマに指を突きつけて言うクライサは先程からずっと青ざめており、彼女が本気で虫を苦手としている事を知るイルミナは心底同情した。
そして漸く戦闘体勢をとってくれたクライサに並び、炎を纏わせた剣を構える。
アクマの両腕を刃が覆った。
「おまえ達が私を破壊するのと、私がおまえ達を腐らせるの、どちらが早いかな?」
「早さなんか関係ないわ。虫ごと焼き尽くす」
「凍り尽くす。地獄見せてやるから、覚悟しな」
【H22/04/07】
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