05
残り数体だ、と油断していたのかもしれない。
「「!!」」
突然背後に現れた気配に、振り返った時には遅かった。
イルミナの服を掠り、クライサの肩を削る。
舌打ちした少女は反射的に傷口を押さえながら、『それ』から離れるように飛び退った。
「…イルミナさん。新手の登場ですよ」
「そうね。その辺のザコよりよっぽど手応えがありそうだわ」
彼女らの視線の先には一つの人影。
刃物のような形状になった右腕を楽しそうに振るうと、付着した血が飛ぶ。
それが自らのものだと知るクライサは、顔を歪めて目の前のアクマを見た。
「なんだろうね、あいつ」
「アクマはアクマなんだろうけど、今までのやつとは雰囲気が違うわよね」
そのアクマは、これまでに相手をしてきたものよりも人に近い姿をしている。
鋼のような皮膚に覆われた身体、レベル1の球体ともレベル2のふざけた姿とも違う空気を持っているようだ。
「って事は、素直に考えてレベルが上がったって事になりますか?」
「その通り」
そうでしょうねとイルミナが同意するより先に、アクマの方が口を開いた。
よかった、言葉は通じるようだ。
……何がよかったのかはわからんが。
「私はレベル3だよ、エクソシスト」
「なるほど。確かにレベル2なんかよりはずっと強そうね」
武器を構えた二人を前にしたアクマは、歯を剥き出しにしてニヤリと笑う。
その時だ。
「───ッ!?」
クライサの背を何かが駆ける。
異常を察したイルミナが振り返った先で、クライサは生み出した氷の刃で自らの肩口を抉った。
「クラちゃん!?」
一体何をしているんだ。
突然の自傷行為に驚いたイルミナが少女の腕を押さえにかかるが、しかしクライサは止まらない。
氷のナイフを勢い良く引き抜くと、溢れた血が塊となって地面に落ちる。
クライサは更にそこに刃を突き立て、そこで漸く顔を上げた。
「やってくれるじゃんか…!」
それはイルミナに向けられた言葉ではない。
戸惑う彼女の向こう側で、アクマが上機嫌そうに笑った。
「反応が早いね。惜しかったなぁ」
「何、クラちゃん、どういう事なの?」
傷つけた肩を氷で覆い止血をすると、クライサはアクマを警戒しながら、イルミナにナイフが突き立ったままの血溜まりを見るよう促す。
その通りに足元を見下ろしたイルミナは、真っ赤になった刃が貫いているものを視界にとらえ、目を見開いた。
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