05
「へぇ、じゃあ伯爵側のスパイって疑惑は晴れたんだ」
「一応ね。拘束されるような事はないみたいだし、疑わしい行動をとらない限りは大丈夫でしょ」
修練場。
クライサと神田の組み手を眺めながら、イルミナはラビに事情を話した。
重さののった拳を受け流し、そのままクライサの手首を掴んだ神田が小さな体を投げ飛ばしたのを見て、ラビがおおと歓声を上げる。
「なら、クラの機嫌もそのうち直るな」
「ええ。そのための組み手なんでしょ、これ」
微笑みを浮かべたイルミナに苦笑を返す。
多分その通りです。
クライサは考えるのも苦手ではないが、それよりは体を動かしている方が好きだし性に合っている。
何か苛立つ事があったり悩みを持っている時は、組み手をしてネガティブな気持ちをすっ飛ばす事にしているのだ。
それを神田は知っているから、先のような事を言った。
「あーあー、二人とも楽しそうな顔しちゃって」
普段いがみ合ってばかりいるくせに、こういう時だけは楽しそうに笑いながら互いに攻撃を繰り出すのだ。
本当に彼らは、仲が悪いのか良いのかわからない。
「あら、嫉妬?」
「へっ?」
唐突な質問と向けられた笑みに、ラビは固まった。
言われた内容を反芻してみる。
嫉妬。
……嫉妬?
「どりゃあああぁ!!」
答えを返せないままでいると、組み手をしていた二人のうち小さい方の雄叫びじみた声が聞こえてきた。
見れば、また投げられて壁にあたりかけたのか、そこを蹴ったらしいクライサが勢いよく飛び蹴りをかまそうとしているところだった。
しかしなにぶん技が大振り過ぎる。
避けられた上に伸ばした方の足を掴まれ、またも投げられてしまった。
「んぎゃああっ!!」
「Σうわぁあっ!!」
あ、アレンが巻き込まれた。
ラビは遠くを見る目でそれを眺める。
イルミナは微笑ましそうに見守っているし、神田は既に我関せずといった様子で乱れた髪を結い直している。
「いやー、今日はよく飛ばされたわー」
同じくぼさぼさになった髪をまとめながら戻ってきたクライサは、神田と短い会話をかわしてから、そう言いながら歩いてきた。
どうやら今日のところはこれで上がりらしい。
空腹を満たすために食堂に向かうようだ。
ならば一緒しようか、と彼女らに続こうとしたラビを見て、クライサが首を傾げた。
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