04 「私達はスパイではありません」 「信用出来ると思うかね?」 「信用していただけませんか?」 ルベリエとイルミナの視線が、睨み合いに近い形で交わる。 再び落ちる沈黙。 ルベリエが、ふうと息をついた。 「…スパイでない事を認めるとしても、キミ達がノアを前にして闘わなかった事に変わりはない」 中央庁や教皇が最も優先する事は、ノアや千年伯爵を倒す事。 エクソシストはそれだけを考え、敵を倒す道具として生きればいい。 そう考える彼らから見れば、クライサ達の行動は敵前逃亡とも言えなくはない。 「アンタねぇ…!いくらノアを倒すためって言っても、大勢の一般人を巻き込んでいいわけないでしょ!!」 「クラちゃん、落ち着いて」 「でもっ」 イルミナはとにかく冷静にクライサを黙らせ、言う。 彼女も思っている文句をクライサが言ってくれているから、イルミナ自身は冷静なままでいられるのだ。 「敵前逃亡…あなたがそう思うなら、私はそれを否定しませんよ。そうとってもらって構いません」 「イルミナさん!?」 「ただ、私達は今エクソシストとしてこの教団にいます。アクマを倒す力をいただきましたから。その事は忘れないでください」 冷たい表情を変えなかったルベリエと同じように、彼を真っ直ぐに見るイルミナの真剣な顔も変わりはしなかった。 さすがアメストリスの国軍中佐。 そこらの男では持ってすらいない威厳が彼女にはある。 「…いいでしょう。今回は見逃しますが、今後も我々は疑惑を持ってキミ達を監視します」 「構いませんよ。それなりのプライバシーさえ守っていただければ」 そこで初めて、イルミナがにこりと微笑んだ。 ルベリエは一瞬眉を顰めたが、わざとらしく肩を上下させて溜め息をつくと席を立つ。 「今後、疑わしい行動は慎む事です。それから、」 たとえ異世界の人間であろうと、エクソシストはここから逃げられない。 「では、ご機嫌よう」 そしてコムイに軽く頭を下げ、ルベリエは部屋を出ていった。 途端にクライサは大きく息を吐き出してソファーに凭れる。 疲れた。 なんか激しく疲れた。 「引いてくれてよかったわね」 「ほんと。イルミナさんのおかげだよ…ありがと」 微笑みを浮かべる彼女は、ぐったりとしたクライサの頭をポンポンと叩く。 慰めるような行動にまた礼を言いつつ、コムイへと目を向けた。 「ねぇ、もう行っていい?」 「うん。お疲れ様、二人とも」 「そっちもね」 コムイの苦笑にクライサも苦笑って、冷めた紅茶を一気に喉に流し込んでから席を立った。 [*前へ][次へ#] |