03
「……あとで付き合え」
クライサは顔を上げて横を見た。
しかし彼は既に座禅を再開させたようで、前を向いて目を伏せてしまっている。
「それって」
「組み手」
「……わかった」
じゃあ、頑張ってくる。
笑みを浮かべて言ったクライサは、重かった筈の腰をひょいと上げ、呼び出しに応じるべく駆け出した。
「だから、あたし達は意図的にこの世界に来たわけじゃないの。何度も説明してるでしょ!?」
司令室に不機嫌な声が響く。
向かい合わせになったソファーの一方にイルミナと共に座るクライサは、もう一方のルベリエとの間に置かれたローテーブルに両手を叩きつけた。
しかしルベリエは冷たい表情を変えず、紅茶の入ったカップを傾けている。
「キミ達が異世界の人間だという事は報告を受けているがね。そう易々と信用出来る立場ではないんですよ、私は」
言い返そうとしたクライサの名を呼び制したイルミナが、ルベリエと目を合わせて口を開く。
「確かに、あなたの言うように私達は身の潔白を証明する方法を知りません。けれど」
何故、彼らはイルミナ達をノアの手先だと、確信を持って言えるのだ。
「私達がそれを決定付けるような事をしましたか?」
沈黙が落ちる。
最初に口を開いたのは、笑ったルベリエだ。
「キミ達は自分の行動も覚えていないのかね」
今回のクロス捜索の任務中、立ち寄った街。
そこでクライサとイルミナは何をしたか。
誰と、会ったか。
「キミ達は、ノアと仲良くお喋りをしていたのではないかね?」
二人は目を見開き、コムイがはっとして彼女らを見た。
ルベリエは笑っている。
さも鬼の首を取ったような顔で。
あの街でクライサ達はティキとロードに会い、しかし戦闘はせず話をするだけで終わった。
それは確かだ。
「…なに、あたし達に監視つけてたの?」
「キミ達の事を報告された頃から少なからず疑っていましたからね、当然の処置だと思いますが?」
「仲良くかどうかは別として、私達がノア二人と闘わずに話していた事に間違いはないですね」
しかし、それは周囲の人間を巻き込まないためだ。
大勢の人間が生活する街の中で、彼らを避難させる時間も人員もないのに戦闘を始めるわけにはいかない。
ティキ達に闘う意志が無かったからというのも理由の一つだが、そんな事はルベリエには関係ないだろう。
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