02
一方的な戦闘が始まって数分、新たな気配を感じてクライサが視線を巡らせた。
そして一点に定めると、腰のベルトに差したナイフを握り、
「そこ!」
路地の更に奥まった場所、建物の影が濃い辺りに投げた。
ナイフが地面に刺さった瞬間、異変を感じたイルミナとティキが動きを止めて、クライサと同じ方を見る。
彼女らの視線の先に、突然ハートを象った扉が現れた。
「!あれは…」
「どしたのイルミナさん」
「私が通ってきたものと同じなのよ、あれ」
そういえば、彼女は仕事部屋に突然現れた扉を通ってこの世界に来たと言っていた。
今ここにあるのが同じものだとしたら、最低限の警戒はしておいた方がいい。
クライサとイルミナは身構え、それに集中する。
扉がゆっくりと開かれた。
「ティッキーってば、いつまでやってんのぉ?」
「Σもぎゃあぁぁあぁ!!」
かと思えば、飛び出してきた影がクライサへと襲いかかった。
ツンツンと黒髪を尖らせた少女に飛び付かれたクライサは絶叫を上げ、イルミナはまあと口に手を当てる。
ティキが肩を竦めつつ溜め息をついた。
「むしろお前が何やってんだよ。おチビちゃん固まってるぞ」
「あ、もしかしてこの子が『クライサ』?」
「そ。オレの獲物だから手ぇ出すなよ」
「どーしよっかなぁ」
「喋ってないでさっさと離れんかい!!」
首に絡められた細腕を握り、足を払って背負い投げの要領で勢いよく投げた。
宙に放り投げられた少女は目を丸くしていたが、その一瞬後にやりと笑い、くるりと回ってティキの上に着地する。
当然下敷きにされたティキは地べたに這う事になるが、彼女にはそれを気にする素振りも無かった。
「ねぇティッキー、その子誰?」
「一応オレの仲間…」
「大変ねぇティッキー、仲間にまで足蹴にされて」
「っていうかなんでその呼び名定着してんの…?」
「男が細かい事気にしちゃダメよティッキー」
「そうだよハゲるよティッキー」
「なんかムカつくんでやめてください」
乱入してきた少女は、ロード・キャメロットと名乗った。
ティキと同じノアの一族なのだが、今回は単に彼の様子を見に来ただけなのだそうだ。
人の事は言えないが、伯爵の仲間がエクソシストとのんきに駄弁っていていいのだろうか。
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