01
『一緒に食事でもどうですか、リトル・レディー?』
持ち上げられた右手。
甲に触れた唇。
眼下に見える黒髪。
挑戦的な目が上目遣いに見上げてきた瞬間、
「Σおぶふっ!!」
左拳をその顔面に叩き込んでいた。
14:扉の主
クライサは頭上を仰いだ。
彼女が感じたとある気配は、足元の両手で顔を覆いのたうち回っている男に、真っ直ぐに落ちてきた。
「Σうおぉ!?」
どグサッと垂直に地面に突き刺さった長剣を、男は飛び起きるようにして避けやがった。
そう、避けたのだ。
物質を通過するという能力を持ちながら。
まあつまり、彼目掛けて落ちてきた剣が、イノセンスに他ならないというわけなのだが。
「うちの大事なクラちゃんに無礼をはたらくのは、いったいどこの馬の骨かしら?」
地面に突き刺さったままの剣の横に、すたん、とその持ち主が下り立った。
クライサの予想通り、その人物はイルミナだった。
っていうかどこから下りてきたんですかアンタ。
浮かんだ疑問をクライサはマッハで消し去った。
「ノアの一族のティキ・ミック卿です、イルミナお姉さま」
「ちょっ、おチビちゃん!こんな時だけ名前呼ばないで!」
男は地面に座り込んだままビクビクしているので、あっさり身元をバラしてみた。
イルミナの目がぎらりと光る。
ティキはもちろん、クライサですらビクリと肩を震わせた。
「そう…ノア。ノアね。ノアというと、あのノアで間違いないのかしら」
「連呼し過ぎですイルミナさん。そう、『あの』がどれだかわかんないけど、多分そのノア」
わかったわ、とイルミナが微笑むと同時に発動したイノセンスが炎を纏い、彼女はそれを握った。
慌てたティキは飛び上がるようにして立ち、焦り満面にクライサを見る。
どうやら助けを求めているらしいが知ったこっちゃない。
「待っ!タンマタンマ!今日は一時休戦だって言ったろ!?」
「言ったっけ?」
「あ、いや、言ってないかもしんないけど」
こちらのやり取りなんて聞いちゃいないイルミナが、笑みを浮かべたまま剣を振るう。
必死の形相で避けるティキを、クライサは離れた位置から眺める事にした。
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