04
「で、ホントになーんでお嬢ちゃんにはオレの能力効かないわけ?」
右手で顎を、左手で腹部を擦りながら男はクライサに目を向けた。
その疑問が解消されない限りは攻撃行動に出ないだろう、と判断し、戦闘体勢を一時解いて口を開く。
彼の質問の答えは、おそらく自分が導き出したものと同じだろう。
「簡単だよ。あたしがこの世の人間じゃないからだ」
予想通り、クライサの言葉を聞いた男は目を丸くして、間の抜けた顔を晒している。
まあ、無理もないだろうが。
「……何ソレ」
「言葉の通りだよ」
彼は、この世のあらゆる物に対して『選択』する権利を持っている。
しかし、イノセンスは別だと言うじゃないか。
「導き出せる答えは一つでしょ。あたしはイノセンスと同じく、『この世の万物』じゃないって事」
「……幽霊とか?」
「アンタ顔はいいのに頭悪いね」
「よく言われる」
そこで自分はこの世界の人間ではなく、ちょっとしたトラブルにより異世界からやって来たのだと告げると、漸く彼は納得したようだった(ああもう手間のかかる)。
そして何やら楽しそうな笑みを浮かべながら、こちらをじっと見つめている。
「何」
「気に入ったよ、お前」
「は?」
やはり攻撃してくる様子は無いが、彼のそんな一言に耳を疑った。
ノアに気に入られるなんて冗談じゃない。
「ここで殺すにゃ惜しいな。オレはティキ・ミック。お前は?」
「………」
「おいおい、名前ぐらい教えてくれてもいいんじゃねぇの?」
教えてやらない限り、帰る気も無さそうだ。
渋々フルネームを名乗ると、彼はまた驚いたように目を見開いた。
「…そうか、お前が千年公の言ってた…」
「センネンコー?」
「そうかそうか。…なるほどね…うん、確かにそうだ」
「だから何だっつーのコノヤロウ」
一人で納得して頷いてる男の頭上に、タライ型の氷を作り出す。
重力に従い、彼の頭目掛けて落下したそれが鈍い音を立てると、ティキもまた鈍く呻いた。
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