05 地面を凍らせたはいいが、アクマの意思によって氷が蔓状に変形するかもしれない。 そう考えていたクライサは、一先ず安心した。 相手の手元の氷は、形を変える気配は無い。 彼の能力を氷は弾いてしまうらしい。 氷の錬金術師であるクライサにとって、それは好都合だ。 「…ムカつくなぁ、君」 不意に耳に届いた声に目を見開く。 溢れんばかりの殺気が、こちらを見つめている。 「エクソシストでも無いくせに」 立ち上がる。 その威圧に、クライサは一歩後退った。 「ただの人間のくせに」 一歩、足を踏み出す。 また一歩、後退る。 「生意気なんだよぉ…!!」 アクマの腹部から、巨大な銃口が顔を覗かせた。 少女に向けられたそれ。 足に力が入らない。 「クラ!!」 背後から耳に届いた声にとっさに振り返れば、待ち望んだ彼が屋根づたいに走ってくる。 後ろには老人もついている。 だが、その名を呼ぶ余裕はなかった。 再び前方に目を向ければ、聞こえる機械音。 けたたましく笑うピエロ。 少女に狙いを定めた銃口。 足が動かない。 腕も、体全体が動かない。 ただ頭だけが、妙に冷静に状況を理解していた。 (やだな、) こんなところで死ぬなんて 死にたくない 兄や、友人たちのいない世界で 彼のいない世界で 死にたくなんか、ない (エド、) ごめんね 「……っ!?」 目を伏せた途端、瞼の向こうから突き刺さるような閃光が彼女に届いた。 それは彼女の体を包み、波紋のように広がっていく。 ラビも、ブックマンも動きを止めた。 「な……」 「何だ、この光は…!?」 両腕を顔の前でクロスさせ、少しでも目へのダメージを減少させようとする。 目を伏せたままだったクライサが、光の元を確かめようと、ゆっくりと目を開いた。 「………え?」 光を発していたのは、クライサの腕。 正確には、彼女の腕に通された、銀の腕輪だった。 わけもわからず戸惑うクライサだったが、それに構わず、目の前にいたアクマの腹部から銃弾が発射された。 「クラ!!」 「クラ嬢!!」 [*前へ][次へ#] |