03 「この世の万物において、オレは『選択』する権利を持ってるのさ」 触れたいと思うものにだけ触れられる。 その言葉を証明するように、男は民家の外壁へと手を伸ばした。 まずは、触れる。 そして彼が笑みを濃くすると共に、手のひらから壁の中へと飲み込まれていく。 触れたくないものをすり抜けられるという事はつまり、言い換えれば、空気も踏みつけられるという事だ。 彼が拒絶すれば、触れて当たり前のものを通過し、彼が選べば、触れられない筈のものも実体を持つ。 ただし、この世の万物でない、イノセンスは例外だ。 「この能力って結構面白くってさー、例えば身体に直接触れずに心臓を抜き取る…なんて事も出来るんだぜ」 言い終えるや否や、彼は地上に下り立った。 かと思えば、その姿はクライサの前へ。 少女は動かず、目の前に立つ男の顔をただ黙って見上げている。 「こんな風に、な」 男の腕が持ち上がる。 それはゆっくりとした動きでクライサの胸に狙いを定め、触れた。 ニヤリ、歪んだ口元を空色は見逃さなかった。 「…………あ?」 目を見開いたのは、男だった。 間の抜けた声。 予想だにしない事態に、動きが止まる。 手のひらは少女の胸に触れている。 そう、触れているのだ。 『拒絶した』にもかかわらず。 「…い」 「へ?」 どうして通過出来ない? 理解出来ず、触れた部分から目をそらせずにいると、少女の呟くような声が聞こえた。 「……いつまで人の胸触っとんだこの変態!!」 「え、違……いや違わないか、この状況は」 「なに冷静に言っ…Σってノるな揉むなまさぐるな!!」 「そんな怒んなよー、オレだってこんな小さいの触って喜ぶような変態じゃねぇよ」 「小さいって言うな!!」 真顔な紳士の顎に頭突きを食らわせて、ふらついたところでボディーブロー。 呻き声を聞きながら後方に跳び、痛む頭を軽く擦る。 自分にも少なからずダメージはあったものの、距離はとれたから問題無し。 [*前へ][次へ#] |