03 「失敗した…」 細い路地の一角に蹲り、クライサは大きな溜め息をついた。 遠くに聞こえる戦闘音。 その大きさから考えて、ラビとブックマンは同じ位置でアクマ達と戦っている。 クライサの現在位置から遠く離れた場所で。 (まずいかも…) 精一杯時間稼ぎはするつもりだが、レベル2のアクマから逃げ切れる自信なんて無い。 正直、早くラビ達に助けてもらいたい。 「なのに、こんなに離れちゃうなんて…」 もう少し助けに来やすい所まで戻ろうか。 場所を考えながら走れば良かった。 「……っ!!」 悪寒にも似た感覚を背筋に感じ、勢い良く立ち上がる。 次いで頭上を見上げ、背後を振り返り、周囲を見回す。 ザワザワとした体を包む感覚に息を呑み、拳を握り締めたクライサ。 感じるのは、恐怖。 (何処だ?) 突き刺さるような視線を身体中に感じる。 針のような可愛い痛みじゃない。 剣による斬撃を全身に受けたような、体中をメッタ刺しにされたような、激しく恐ろしい痛みを感じる。 こんな感覚、軍人として働いていた時でも滅多に味わう事はなかったのに。 「…くそ……」 視線の主は、一体何処にいる? 空気が震えるような殺気を振り撒いている、張本人は。 「……そこ!!」 傍らにあった木箱を素早く爪先で拾い上げ、思い切り蹴り飛ばした。 それは多少砕けた部分もあったが、元々頑丈なものだったのか、形を失わずに真っ直ぐ飛んでいく。 少女の視線の先、数十メートル先の上空へ。 「…痛いなぁ」 木箱の割れる、大きな破壊音が響いた後に聞こえた声。 大して痛がっているような素振りも見せず、アクマが言った。 ピエロを象った姿は相変わらず、先と打って変わったのは 「………!!」 クライサを見る、恐ろしい目だけ。 目が合うだけで、殺気に包まれる。 身動きが取れなくなる。 鋭く、険しく、恐ろしい、目。 (完全に殺る気、だね) 今度こそ絶体絶命の大ピンチだ。 先程までは相手には余裕が見えたが、今はそんなもの欠片も見当たらない。 本当に、本気で。 クライサを殺す気でいる。 [*前へ][次へ#] |