04 周囲にいたアクマの存在を忘れかけたところだっただろうか。 一体のアクマが、ラビに銃口を向ける。 「ラビ!」 それに逸早く気付いたクライサが声を上げるが、ラビがそちらに振り向くより早く弾丸が発射された。 「くっ…!」 避ける事は不可能だと判断するや否や、反射的に槌を構える。 弾を防ぐ事は出来たが、その衝撃で僅かに体勢が崩れた。 右手の槌と前方のアクマに気をとられ、左手から滑り落ちる銀の腕輪。 「しまっ…イノセンスが…!」 (イノセンス?) ラビの声を耳にすると、クライサはそれを目で追う。 建物の屋根に立つ彼の手元を離れ、地面に向かい落ちて行く銀色のそれ。 日の光を反射し、キラキラと光っているようにも見える。 気付けば、駆け出していた。 「クラ!?」 腕輪が地に落ちるより早く、少女はその元に辿り着く。 広げた両手の中にイノセンスを迎え入れると、頭上にいるラビの方へと顔を上げた。 「ラビ!どうすればいい!?」 イノセンスをアクマに渡してはならない。 それだけはわかっていた。 だが、クライサが持ち続けるわけにもいかないだろう。 イノセンスを守り切る力を、彼女は持っていないのだから。 (ラビかブックマンの手元にあれば安全なんだろうけど…) 生憎、どちらもアクマとの戦闘で手一杯のようだ。 では、どうすれば良いのか。 「逃げろ!!」 再度、彼を見上げた。 「それを持って逃げろ!!立ち止まるな!!」 「………っ」 ラビと、その周りを囲むアクマを目にした瞬間、クライサはそこから逃げ出した。 奴らに捕まっちゃいけない。 イノセンスを奪われちゃいけない。 (逃げる、なんて) いつもなら屈辱的だと感じると思う。 けれど、今はそんな事を言っていられない。 「イのせンス…」 「イノセんすヨコせ…」 数体のアクマがクライサを追う。 捕まるな。 立ち止まるな。 自身を叱咤しながら、ラビに背を向けた少女は走り続ける。 「イのセンス…」 「ちょーっと待つさ」 [*前へ][次へ#] |