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02




少女の右腕を、紅い鋼鉄が包んでいた。

蝶は全て、槍を模した氷に貫かれて落ちた。
それは蝶が探索部隊の元に辿り着く前、クライサを通り過ぎてすぐの事だ。

「ちょっとそこのジェントルマン。レディーを無視して他の男追っかけるなんて失礼じゃなくて?」

一瞬の事に目を丸くしていた男だが、少女の言葉に再びニィ、と笑う。
彼女の背後には既に探索部隊達の姿は無く、どうやら無事逃げ切ってくれたようだ。
地面に落ちた蝶が、灰になって消えた。

「いやいやリトル・レディー。ダンスに誘うなら邪魔者を消してから、と思ってね」

「そう?だったら一曲だけ付き合ってあげるから、さっさと消えてほしいんだけど」

「つれないお嬢さんだ」

カツン、カツン。
ゆったりとした足取りで男は歩く。
彼の向かう先に立つ少女は、自然な動作で戦闘体勢をとった。
表情は変えない。
思考を無にして、相手の出方を窺う。

「さて、リトル・レディー」

男が、被っていたシルクハットを取った。
ひゅ、と投げられたそれを思わず受け取り、瞬間背筋を駆け上った悪寒に身を屈める。
頭があった場所を横切ったのは、巨大な蝶のようなものを纏った男の腕だった。
こちらを見下ろす男と目が合う。

「お前は、どんくらいで壊れんの?」

冷たい瞳。
背筋が凍りそうな声を耳にした少女は、飛んだ。

タン、と軽やかな音がしたかと思えば、レンガ造りの民家の壁を蹴ったクライサが男に向かっていく。
右の拳を握り締め、勢い良く突き出したが、それがめり込んだのは地面。
パキパキと凍りついたそこを見て、空中で動きを止めている男はヒュウ、と短く口笛を吹いた。

「それがお嬢ちゃんのイノセンスか」

「ちょっと待ってよ、ノアって空も飛べんの?本当に人間?」

「いんや、これはオレの能力」

ノアは、イノセンスを破壊するという基本能力以外に、それぞれ固有の能力を持っているらしい。
ならば、彼の持つ力は『空を飛ぶ』事なのだろうか。

(そんなわけないよねぇ)

睨むようにして彼を見つめる視線の先で、男が足を動かした。
彼は空中に立っている筈なのに、その靴がカツンと音を立てる。






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あきゅろす。
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