03
次の目的地に向かう前にもう一度この町をまわってみようとの提案で、三組に分かれてクロスの姿を捜す事にした。
アレンとリナリー、ラビと神田と別れ、クライサはイルミナと共に廃墟の中を歩いていた。
滅ぼされた町にはもちろん人気など無く、静寂に包まれた通りには瓦礫を踏み締める音がやけに大きく響く。
斜め後ろを歩いていたイルミナに呼ばれて、足を進めながら顔だけで振り返った。
「さっきの戦闘、動きにキレが無かったわね」
いつもと変わらぬ笑顔、口調、声。
目を丸くして、しかし一瞬後には同じように笑みを浮かべた。
「やっぱわかっちゃう?参ったなぁ」
少しも参った風でない口調で言って、また前を向く。
拳大の汚れたボールを見つけて、右足で勢い良く蹴り上げた。
高く飛んだそれは弧を描いて落ちていく。
地面に跳ねた音が微かに聞こえて、耳に添えていた手を下ろした。
「聞いたわよ。不老不死の女の子に会ったって?」
「ラビが話したの?ったく、余計な事を」
「クラちゃんらしくないわね。何か気にしてる事があるんでしょ」
「………」
「その子を死なせてしまった事を悔いてるの?…ううん、違うわね」
迷ってるんでしょ?
確信を持った問いに振り返る。
真っ直ぐ向けられた青と目が合って、逸らす事なく見つめ返した。
「…死が救いになる事もあるんだなって、改めて思った。けどそれを認めたくない気持ちもあって、さ」
ミスティ・ハーミットの最期の顔を思い出す。
あれ以上に穏やかな笑顔は見た事が無い。
それがたとえ死に顔だったとしても、幸福に満ちていたとしか表現出来なかった。
「あたしはミスティを殺したアクマを恨もうとした。でも、それは間違いかもしれないんだ」
彼女を殺したのは確かにアクマだったけれど、それに拒絶不可能の命令を下したのは製造者だ。
恨むべきは千年伯爵だ。
「…だけど、誰かを恨む事自体が間違いなのかなって思った。ミスティが救われたのは多分本当の事だし。だから」
わからなくなった。
どうしたらいいのか、どうしたいのかわからなくなってしまった。
だから
「蓋をした」
混乱する気持ちに蓋をして、無関心を選択した。
元の世界に帰る事だけを考えて、偽りの仮面を被って、心を閉ざした。
それが歪みを作っている事には気付いていたけれど、蓋を開ける事はしたくなかった。
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