[携帯モード] [URL送信]
02




「イノセンス…ですか」

この屋敷を、ミスティを訪ねた元々の目的を話すと、彼女は目を丸くした。
しかし、すぐに何かを思案するような表情になり、再びクライサと目を合わせる。

「心当たりはあります」

「ほんと!?」

「ええ。私が老いない体になった時、確かに、体内に何らかの存在を感じました」


違和感を感じたのは、200年以上前、10歳の誕生日を迎えた時だった。
見た目どこが変わったわけではなく、両親や周囲の人間が何かに気付いたわけではない。
ミスティだけが、体内に──そう、ちょうど心臓の辺りに、何かがあるのを感じていた。

老いない身体になったと気付いたのは、それから二年後の事だった。
子供は成長が早く、10代の初めの頃といえば、背も伸び外見の変化も顕著になる時期の筈だ。
なのに、ミスティの見た目は何一つ変わらなかった。

死なない身体になったと気付いたのは、更に八年後の事だった。
流行り病がハーミット家の屋敷を襲った。
ミスティの両親や、当時大勢いた使用人の大半が死んだ。
なのに、両親の一番近くにいたミスティは、病にかかる事すらなかった。

これ以上犠牲が増えないようにと、残っていた僅かな使用人達に暇を出し、屋敷にはミスティ一人きりになった。
200年もの時をたった一人で生き続け、気が狂いそうになった事もある。
自殺を試みて、手首や首筋を切った事もある。
だが、どんなに血を流しても、死ぬ事は出来なかった(不死なのではないか、という考えは、ここで初めて確信となった)。

睡眠をとらなくても体調を崩す事はない。
食事を摂らなくても餓死する事はないし、それ以前に空腹を感じる事すらない。
味を感じないわけでも何も食べられないわけでもないから、ラミアンが作ってくれる食事は適度に食べているが。

「実際になってみて、よくわかりました。不老不死などというものは、人間が欲すべきものではありません」

終わりのない時を、ただ息をして過ごすだけ。
永遠のような時間を、共に生きられる者はいない。
ミスティに与えられたものは、彼女にとって、地獄以外の何物でもなかった。






[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!