03
イルミナは、先に述べた通り南方司令部に勤める軍人で、20代半ばにして中佐の地位に就く女剣士だ。
背中に届く位の長さの銀髪、その間から覗く碧混じりの青眼は、普段は穏やかな光を帯びているが戦闘時には鋭く輝く。
高い地位に就く人間ではあるものの、人懐っこい性格のせいか他者と親しくなるのも上手い。
適応力も高い……のは以前から知っていたが。
「あら、私の剣そっくりじゃない。握り心地までほとんど変わらないし…いい仕事するのね、コムイ」
「でしょでしょ?やっぱり本人が使い慣れてる武器が一番だからね。出来るだけ前の剣に似せようと思って頑張ったんだよ」
「折れた剣も直してくれたんでしょ?助かるわ」
「僕にかかればお安い御用さ!」
「その調子で仕事にも取りかかってあげてね。科学班のみんな、死にそうになってるから。……あら、クラちゃんどうかしたの?」
「イルミナさん、馴染み過ぎじゃない?」
完成したばかりの対アクマ武器を囲み、コムイやリーバー達と言葉を交わし合っているイルミナに、輪を外れたところでそれを見ていたクライサが言った。
や、きょとんとした顔で見つめ返してこないでください。
間違った事を言ったような気がしてくるから。
「ま、早く慣れるに越した事は無いから別にいいんだけどさ」
「(クラが死んだ魚の目をしてる…)」
武器加工を済ませたイノセンスに続き、コムイがイルミナに差し出したのはエクソシスト用の黒い団服だった。
それを受け取った彼女は嬉しそうに笑い、対してクライサは微かに顔を歪める。
隣に立っていたラビだけが、少女の表情の変化に気付いた。
「楽しそうだね、イルミナさん」
「ええ、楽しいわよ?異世界に来る事なんて、そう無いもの」
もちろん、遊び感覚でいるつもりは無いけど。
笑う彼女は本当にこの状況を楽しんでいるようで、クライサは溜め息をつきつつ肩から力を抜いた。
隣から窺うような視線を送ってくるラビに気付いて、肩を竦めて苦笑を返す。
素直に喜ぶのは気が引けるが、ここで彼女に会えて正直良かったと思った。
こちらの世界に来てからはなかなか気を緩める事が出来なかったから、以前から親しくしていた相手と顔を合わせた事で、多少なりとも心に余裕が出来た。
特に相手はイルミナだ。
彼女の纏う空気に触れると、不思議と気持ちが落ち着く。
意識せず笑みに綻ぶ口元に、単純なものだと内心苦笑した。
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