05
「泣かせますネェ」
新たに生まれた声と気配に、クライサは顔を上げる。
その後ろで、ラビと神田が舌打った。
ラミアンの後方に、大きく丸いシルエットが見えた。
アクマか?
──いや、人だ。
(………人か?)
長いシルクハット。
丸い身体。
どデカイ口。
尖った耳。
アクマとは違った気配だし、人間というには異形だし。
「…伯爵殿のお出ましさ」
しかし、理解した。
奴こそが、エクソシストが倒すべき相手──『千年伯爵』なのだと。
「美しき主従関係…しかしそれは、たった一つの言葉でブチ壊しになってしまうのでス」
「…なるほど。アンタがラミアンを唆したんだね」
ゆっくりと、一歩。
足を踏み出した少女の肩を、ラビが掴む。
下手に動くなと。
だが少女はそれに従わず足を進め、ラミアンの横を通り過ぎ、倒れたミスティの傍らに膝をついた。
血溜まりの中に踏み込んだのだ。
露になった膝に乾いていない血液がつくが、彼女は気にも留めない。
「初めまして、千年伯爵。あたしはクライサ・リミスク。アンタをブッ殺すエクソシストだよ」
顔は上げない。
その目には、もう動かないミスティの姿のみを映し、両腕で自分より小さな身体を抱き上げた。
彼女の胸部から腹部にかけて、大きな穴が空いている。
胸部のイノセンスを奪われ、同時に心臓を傷つけられたのだ。
不老不死である事に悲しみを抱いていた彼女の、無惨な最期。
最後に見た表情は、やはり穏やかな、しかし悲しげな微笑みだった。
「クラ!避けろ!!」
ラビの叫びが響いた。
同時に感じたのは殺気、耳に届いた風切り音。
伯爵の命令を受けたのだろう、ラミアンが刃物を模した腕で斬りかかってきたのがすぐにわかった。
「あたしは、アンタを許さない。絶対に」
ラビと神田が地を蹴ろうとしたその時、彼女の身体を鋭いものが貫いた。
伸ばされた右腕。
本来そこに巻き付く筈の紅い鋼鉄が、真っ直ぐに伸びた状態でラミアンの胸部を貫いていた。
クライサが右手を握り締め、同時にラミアンの身体が内側から凍りついていく。
完全に氷像となり砕け散る直前、彼女の耳に、小さな謝罪の声が聞こえた。
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