04
何事かと、足だけでなく全身の動きを止めてしまったクライサに問う。
が、彼女に追い付いた時、その理由に気付いてしまった。
廊下を漂う、血の匂いに。
「…クラ」
「大丈夫」
あたしは、希望を捨てない。
廊下の先を見つめる目に、陰りはなかった。
一階の最奥、今ではもう使われなくなっている大広間。
ここが一番血の匂いの強い場所だ。
頷き合い、重厚な扉を開いた瞬間、より強くなった匂いに噎せ返りそうになった。
「………!!」
「チビの言った通りだな」
広間の中央に広がる、夥しい程の血。
流しているのは、血の海に沈む小さな身体。
俯せに倒れたミスティの傍らに立つ後ろ姿に、喉を飛び出しそうになった叫びを強引に飲み込んだ。
「ラミアン…どうして…?」
槍のように鋭く尖らせた腕を血で濡らし、ラミアンはゆっくりとこちらを向いた。
返り血で濡れたその顔に表情はなく、死人のような目がクライサをただ見つめている。
どうしてだ。
主人の──ミスティの事を話す彼女は、あんなに生き生きとしていたのに。
あんなに楽しそうに笑っていたのに。
どうして、目の前の彼女は
(機械みたいな顔をしてるんだ)
違う、機械なんだ。
アクマという、生きた兵器なんだ。
「リミスク様。見ての通り、私はアクマです」
だが、この屋敷に迎え入れられた時は、本当に記憶を失っていたのだという。
自分は人間なのだと疑わず、命を救われた主のために一生尽くそうと思っていた。
しかし、
「伯爵様の命令には、逆らえません」
悲しげに、笑った。
頬を濡らす血が、まるで泣いているかのように見える。
血の涙を流しているかのように。
「リミスク様。私を、破壊して下さい」
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