03
ドアが、開け放たれていた。
室内は暗い。
ノブに手をかけ、開いた扉の空間を更に広げる。
脳裏に浮かぶのは『最悪の結末』。
それが現実になるのが恐ろしくて、顔を上げる勇気が持てない。
(歩け、動け、顔を上げろ)
ここにとどまっていたら、何もかもが無駄になる。
あの場をラビと神田に任せて、走ってきたのは何のため?
意を決し、室内に足を踏み入れた。
「アルバート…?」
短い黒髪、長身の背中。
窓からの唯一の光を受ける彼の後ろ姿に、ラビの言葉を思い出してしまった。
彼はアクマだったのか?
イノセンスを奪うためにミスティに近付いたのか?
(ちがう)
振り返った彼が、驚いたように目を見開いた。
慌てたような様子の彼の周りには、ミスティの姿は見られない(もちろん、遺体も)。
ちがう。
アルバートがアクマ?
違う。
「リミスク様!ミスティ様は何処に…」
ほら、違う。
間違っていたのは、あたし達。
あたし達の、考え。
「クラ!ミスティは…」
「探して!!」
外のアクマを破壊し終えたらしいラビ達が追い付いた。
同時に、廊下へ飛び出し走り出す。
説明を求める彼らが追ってくるが、速度を緩めるつもりはない。
「どういう事だ、チビ!」
「アルバートはアクマじゃない!アクマだったのは…」
迂濶だった。
傷だらけで森で倒れていたとか、記憶喪失だとか、そんな事が、人間である証明にはならない。
記憶を失っていても、殺人衝動が起こらないとは限らないし、何よりアクマは伯爵の命令には逆らえないのだ。
広い屋敷内を駆け回る。
目につく扉を全て開けて、姿の見えない二人を探した。
「ダメだ、二階にもいねぇさ」
「三階にもだ」
残るは一階のみ。
ここにもいなかったら、暗く広い森の中を探し回らなければならない。
階段を駆け下りるのすら煩わしくて、最上段からフロアへと飛び下りた。
その後にラビと神田が続く。
だが、廊下を駆けるだろうと思っていた少女が、急に足を止めた。
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