01 視界に広がる無数の墓石。 一つ一つに目を向ければ、どれもが丁寧に磨かれている事がわかり、庭全体にも手入れが行き届いている。 その中心部に位置する二つの墓の前に、ミスティは座っていた。 「これは…」 「私の両親の墓です」 彼女に歩み寄ったクライサの声に、驚く事なく口を開く。 周囲の墓は親類や使用人達のもの。 彼女が見送った者達のものだ。 そう説明する彼女の微笑みは、穏やかだった。 08:鮮紅の月 10歳の誕生日の時にイノセンスが発動し、その後不老不死になった事に気付いても、両親の彼女に対する態度は変わらなかった。 原因や治す方法を調べはしていたが、彼女を恐れる事はなかった。 化け物だと、自分の娘以外のものだと、罵る事もなかった。 「……幸せでした」 温かな家族に囲まれ、使用人に慕われ、不老不死である事なんて忘れてしまえるような毎日だった。 そう、あの流行り病がこの屋敷にやって来るまでは。 「墓石が増える度に、私は自分自身を呪いました」 彼らを救う事の出来なかった自分を。 彼らと共に死ぬ事の出来なかった自分を。 「…アンタは、死にたいの?」 気付いたら口に出していた。 墓石を見つめる彼女の目が、あまりに悲しかったから。 それにミスティは困ったような表情になって、どうでしょう、と笑った。 [次へ#] |