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05




足を止め、こちらを見る彼女の顔は先程までと違って笑ってはいなかった。
怒りを浮かべているわけでもないのに、妙な威圧感がある。

「クラちゃんがこっちの世界に来てから、何があったの?」

「…何が、って…」

上擦った声が出た。
恐怖に似たものが背筋を這い上がる。
イルミナは彼のその様子を見て、ふっと微笑んだ。
途端張り詰めた空気は和らぎ、ラビは思い出したように呼吸を再開させた。

「何か、あの子の心を揺さぶるような事があったんじゃないかって思ったんだけど」

彼に向けていた視線を外し、来た道を振り返った。
長い廊下の先には、つい先程出てきた司令室がある。
そこにはまだクライサが残っているのだろう。

「なんでそう思うんさ?」

「らしくないのよ」

視線が帰ってきた。
青の眼は細められ、苦痛が乗せられているようにすら見えた。

「あの子らしくないの」

クライサは、常に強気な笑みを浮かべ、自身を囲む全ての物事を楽しんで生きている人間だった。
彼女自身、人生笑って生きなきゃ、をモットーとしているように、どのような状況も楽しめる人間だった。
しかし今の彼女は、あきらかに『らしくない』。

「たとえ武装したテロリストに囲まれようと、楽しそうに笑って立ち向かえる子だったのに…」

「…いや、それは何かおかしいんじゃ…」

暴れる事が大好きな彼女はアクマとだって喜んで戦うだろうし、教団での生活も、普通ではそう経験出来ない事だからと精一杯楽しむだろう。
なのに今のクライサは、この世界に存在する事すらも嫌がっているように見える。
元の世界に帰る方法を早く見つけなければと、焦っているように見えるのだ。

「必要以上に、他人との間に壁を作っているような気がするのよ。表面上は仲良くしてても、踏み込ませない一線を引いているような…」

踏み込まれるのを恐れているような。
彼女の言葉を聞きながら、ラビはその原因を探していた。
言われてみれば、出会った当初のクライサは何事にも興味を持ってこちらでの生活を楽しんでいたのに、今では皮を被って心を閉ざしてしまっている。
その境はいつだったか。
思考を巡らせていた彼の脳裏を、あの森の中の屋敷が過った。

「……まさか、あの事をまだ気にしてんのか?」

その呟きを、彼女が逃すわけがなかった。






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あきゅろす。
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