02 「……ん?ちょ、ちょーっと待つさ。これってアルバートの話じゃなかったっけ?」 混乱した様子のラビ、首を傾げる神田の反応を予想していたのか、アルバートは振り返りながら微笑みを浮かべる。 その表情にミスティのそれが重なり、無意識にクライサは右手を握り締めた。 「馬鹿な男の話ですよ」 死してなお、青年は進んだ。 ハーミットの屋敷を目指して。 身体はあの場に置いてきた。 今動いているのは魂のみ。 もちろん、人間には見えないし、ミスティに会えても母の死を知らせる事は不可能だ。 それを理解していても、彼は進んだ。 『ミスティ・ハーミット』の姿をこの目に映すために。 「彼が漸く目的地についた時、屋敷にはミスティ様以外誰もいませんでした」 広い屋敷で、彼女は静かに長い時を過ごしていた。 一日に一度、人目につかないように森の中を散歩して、庭の墓石を手入れし、長い時は数時間祈り続けている。 特別な事をしているわけではないのだけれど、彼女の姿を目にした瞬間、その人柄を理解しそばにいたいと思った。 「それで二百年近く、ハーミットのそばにいた…と」 「なんかストーカーみたいさ…」 顔を歪める彼らに、そうですね、と苦笑した。 今思えば、確かにストーカーのような事をしていたものだ。 けれど、たとえ気付いてもらえる事がなくとも、ただそばにいたかった。 そして今から二年ほど前。 屋敷で暮らす者が二人に増えて一年後、アルバートの力は体を具現化出来るほどに溜まった。 人間の目で見えるように、触れられるようになった。 「そこで漸く、私は正面からこの屋敷を訪ねたのです」 自分の身の上は明かさず、もちろん母の死も伝えず、ここで働かせて欲しいと、ただそう頼んだ。 ミスティは嫌な顔一つせず、彼が語らない事は何一つ問う事なく、二人目の使用人として屋敷に迎え入れたのだ。 [*前へ][次へ#] |