06
「…助けなきゃ…」
スーマンを助けなきゃ。
零れた涙が頬を伝う。
クライサはただ、リナリーを見つめた。
「教団で見たあの実験の事をどれだけヘブラスカに聞いても、何も話してくれなかった」
エクソシストの血縁の子ども。
扉の隙間から覗き見えた彼は、目が合ったリナリーに小さく手を振った。
子どもの無邪気なそれでなく、別れのサインである事を、リナリーは悟ってしまった。
その直後、少年の身体はイノセンスを受け入れさせられたのだ。
「咎落ちになったあの子がどうなったのか、私は知らない……何も知らないの…」
クライサは暫し沈黙し、瞑目した。
その後、開いた空色の双眸はまっすぐにリナリーを見、伸ばした腕で彼女をぎゅうと抱き締めると、体を離しながら笑みを浮かべた。
皆が見慣れた、明るい笑顔だ。
「よし、やろう」
「……え…?」
「可愛いリナリーが泣くんだもん。スーマン助けに行ってくるよ」
ちょっとそこまで遊びに行ってくる、と言うような軽いノリだったので、リナリーは目を瞬くばかりだ。
しかしクライサの視線を受けたイルミナと神田に異論はなく(神田は異論を聞き入れられない事をすでに察しているだけのようだが)、次の言葉を待つように彼女を見つめ返す。
「神田、サポート」
「仕方ねぇな」
「イルミナさんはリナリーと一緒に、近場の町か村行ってコムイに連絡ね。状況報告と、咎落ちに関する情報収集よろしく」
「了解よ」
「『黒い靴』あれば何とかなるよね、リナリー?」
「う、うん…」
じゃ、各自行動!と手を叩けば、リナリーは未だ戸惑っていたがイルミナに促されて走り出した。
それを見送っていると背後で神田が短く溜め息を吐いた。
クライサは苦笑し、振り返る。
「さて、じゃあ宣言しちゃった事だし、スーマン助けに行きますか。経過がどうなってて、結果がどうなっても」
「…?どういう事だ?」
「あたしくらいになると、もう大体推測出来ちゃうんだよね」
答えになっていない答えを返すと、神田は不服そうにこちらを睨むが、小さく首を傾げている姿に珍しく愛嬌を感じた。
「ねぇ。さっきリナリーが、スーマン達の部隊は先日襲撃に遭ったって言ってたよね」
「ああ」
「その後、襲撃に遭った他の部隊っているの?」
「ああ。エクソシスト、探索部隊合わせて100人以上が死んだ」
「……そか」
「どうした」
「仲間が大勢死んで悲しんでる」
「そんなタマじゃねぇだろ」
「えー、ひどいなその言いぐさ。まぁ事実だけど。……ほんとはね、」
こういう推測はいつも外れてくれないんだなって、嘆いてたんだ。
【H24/01/01】
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