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05




そこが人家のなさそうな山奥で、アクマの波に浚われてからかなりの距離を移動してしまった事を確認した直後、それは現れた。
大きな大きな白い物体。
首と腕のない、人間の上半身のような形をしたものが、異様な光を纏いながら浮かんでいた。
出た、と歓喜した声を上げながら、アクマ達はそれを取り囲む。

「……なに、アレ」

あまりにも異様な光景だった。
暫し絶句するしかなかったクライサが、漸く口を開いた時に出たのは情けなくも上擦った声。
小さな山と同じくらいはあるだろうか、そんなものが空に浮かび、周りを囲んだアクマから猛攻撃を受けている。

「攻撃されてる…!?」

「まさか、アクマ達の狙いはアレって事…?」

爆煙の向こう、白い物体の左胸の辺りに、リナリーは見た。
赤い涙を零し、口からは血を吐き出した跡。
胸から上しか外に出ておらず、体のほとんどが埋まってしまっているが、それは確かに人間の姿。
面影はほとんど消えてしまったが、それが誰であるか、リナリーには瞬時にわかった。

「スーマン…?」

直後、頭を抱えて地面に崩れ落ちた彼女が悲鳴を上げ、クライサは慌てて駆け寄る。
どうしたんだ、と膝をついて窺えば、リナリーの見開かれた目には涙が浮かんでいた。

「咎落ち…」

「……え」

「し、使徒の…なり…そこない」

『咎落ち』
イノセンスとのシンクロ率が0以下の人間、すなわち『不適合者』が無理にイノセンスとシンクロしようとすると起こる暴走現象だ。
使徒でない者が神と同調しようとする事を罪とし、あのような異形を作る。
現在は禁止されているが、以前教団で行われていた『エクソシストをつくる実験』を、リナリーは子どもの頃に見た事があるのだ。
エクソシストの血縁者だという、リナリーと変わらない年頃の少年。
イノセンスを無理矢理体に入れられて、身体機能の障害を引き起こし、果ては咎に落ちた。

「でも、どうして…?スーマンは適合者なのに、どうして咎落ちに…」

スーマン・ダークは確かにエクソシストだ。
寄生型イノセンスの適合者で、クライサとイルミナは顔を合わせる機会がなかったが、リナリーとは親交があった。
彼と他二名のエクソシストは、先日インドにて襲撃に遭い、二名が死亡、スーマンは消息不明になっていたと聞く。

「…それがどうして、咎落ちなんかになって…」

イルミナは答えを求めるように三人に順に目を向けるが、リナリーは首を振るばかり、神田は上空のスーマンとアクマ達を睨むように見ており、クライサは顎に手を当てて考え込んでいる。

と、咎落ちの発した大きな音にクライサらが顔を上げれば、先をなくした両腕から眩い光が伸び、ぐるりと身体を横回転した事で周囲のアクマを照らした。
光はすなわち巨大なエネルギー波だ。
それを受けたアクマの大群の一部(それでも夥しい数だ)が一瞬で消え去り、その破壊力の凄まじさを物語る。

「……今のは」

「クラちゃん?」

呟きに、どうかしたのかと疑問を込めて名を呼ばれるが、クライサは返答しなかった。
かわりに、そうか、そういう事かと一人で頷く。
イルミナはさらに疑問を重ねようとしたが、それより先にリナリーが口を開いた。







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