06 「ウェイクフィールド中佐はここで消えたのか?」 部屋に足を踏み入れ、室内の様子を窺いながら茶髪の少年が問う。 それに返答するのは、少年より先に入室を果たしていた黒髪の男だ。 「ああ。彼女の副官が言うには、突然現れた扉の中から伸びた腕が、イルミナを引っ張り込んでしまったらしい」 「突然現れた扉、ねぇ…」 「何もない筈の空間に前触れなく現れ、消えたそうだ。異常だな」 「ったく、姫とエドワードが消えたと思ったら、今度はウェイクフィールド中佐か。ほんと、この世界にいると飽きないよ」 部屋の中心より少しばかり南東にズレた辺り。 そこに扉が現れたのだと、イルミナが消える瞬間まで目撃していた副官が、気の利いた事にテーピングを残してくれた床に目を落とす。 「姫とエドワードが消えたのは、大佐と三人同時に発動した錬金術が原因だろ?」 「ああ、おそらくな」 「おそらくも何も、前科持ちだろ、あんたら。なんで学習しないかな」 「…………」 以前に同じ事があった際、クライサは異世界に飛んでしまったのだと、後に帰ってきた彼女から聞いた。 今回も同じなら、クライサとエドワードはまた異世界に飛ばされたという事になる。 前回が前回だから、こちらで探さずとも勝手に帰ってくる事は期待出来るが。 「中佐が消えたのも、似たような理由だと思うか?」 「……我々三人の錬金術によって空間に穴が空き、クライサと鋼のが異世界に飛ばされたとすれば……イルミナもまた、空間の穴に引きずり込まれたと言っていいだろう」 「ここに現れた扉が空間の穴だって?」 「私はそう考える」 そもそも、世界には空間の綻びが点在すると考えられている。 三人同時に行った錬金術の発動がひとつの大きな力となり、綻びに影響を与えてしまい歪みや穴を生み出してしまった、というのが、以前に同じ事をした際に出した彼ら三人の考えだ。 それと同様に、この部屋にも綻びが存在し、どこか別の場所で何者かが使用した何らかの力を受けて、ここに空間の穴が生まれた。 そしてそれに引きずり込まれたイルミナが、力を行使した者の元へ飛ばされてしまったのだろう、と男は考える。 「だけど、それがこの世界の別の場所なのか、異世界なのかの判別までは出来ない、と」 「ああ。…だが、ここに綻びが存在するなら、同じように力をぶつけてやれば穴を空けられるかもしれん」 そう言って右手に発火布の手袋をはめる男から、少年は距離をとりながら肩を竦めた。 「不確定要素は多すぎだけどな」 「なに、一度試して駄目なら繰り返せばいい。何度試しても駄目なら別の方法を考えればいい」 「仮に扉が開いたら?」 「イルミナを引っ張り出す。それだけだ」 「ミイラとりがミイラになるのは無しな」 当然だ。 肩越しに背後の少年に笑みを向けてから、男は右手を持ち上げる。 そして綻びがあると仮定した空間へ向け、指先を弾いた。 【H23/10/28】 [*前へ] |