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05




背中を押される感覚。
ゆっくりと視線を落とし、見下ろした先。
自身の胸から、刃が生えていた。

「……あ?」

思考が白に、黒に、塗りつぶされる。
蟲を生み出す事も出来ず、少女の血に濡れた腕を引けば、クライサはあっさりと両手を離した。
その瞬間、刃が燃える。

「内から壊される恐怖と苦痛を知ればいいわ」

背後で、その中心に剣を突き立てたイルミナが告げた。
緋焔から溢れた炎がアクマの身体の中を走り、暴れ回る。

「あ、あァ、ああああ!!」

熱い、熱い、熱い!
全身の血液(オイル)が沸騰し、内から焼かれる感覚に絶叫した。
いくら悶え、暴れ、のた打っても、身体の中を走り回る炎は消し去る事が出来ない。
あまりの苦痛に地面を掻く両手の甲が破れ、溢れ出した炎が皮膚を伝って燃え広がる。
ああ、──嗚呼。

「地獄の業火に焼かれて眠りなさい」

──哀れなアクマに、魂の救済を。

赤々と燃え上がる炎に包まれ、空気を震わせる絶叫を上げたアクマの口が、確かに笑みの形に歪んでいるのをクライサは見た。
四肢から崩れ落ちる身体はイノセンスの光に導かれ、灰になって空へと昇っていく。
解放された魂を想って、イルミナは目を伏せ、発動を止めた緋焔を腰の鞘へと納めた。















『──それじゃあ、アクマの蟲はクライサちゃんの体内に残っていなかったんだね?』

「ええ、一応緋焔の炎で探ってみたけど、体内に入り込んだ形跡すらなかったわ」

電話機に接続したゴーレム越しにコムイの安堵する溜め息が聞こえ、イルミナは微笑む。

あのレベル3を倒した後、意識はあったが重傷を負ったクライサを連れて街に戻り、医者の元へ駆け込んだのだ。
幸い、治療出来る範囲の傷で、アクマの能力は残っていなかった。
治療を担当した医師によれば、クライサ自身の自然治癒力次第で早くて二ヶ月ほどで傷は治るらしい。

『それにしても、本当にムチャをする子だね…』

「まったくよね。本人には捨て身のつもりはないでしょうし、勝つために選んだ行動だって事はわかるんだけど、見てるこっちは肝が冷えるわ」

『ははは……とにかく、君も暫く体を休めてくれ。クライサちゃんにもそう言っておいて』

「ええ、わかったわ」

定時連絡だけはするように頼むとの言葉に了承してから、イルミナは通信を切った。
任務の際に行動を共にしていた探索部隊は既にホームへ向かい、回収したイノセンスは別の任務を担当していたアレンがホームへ戻る前にこちらに寄って預かってくれるらしい。
暫しの休息だ、と胸の内で呟くと、無意識のうちに肩から力が抜けた。

「……二ヶ月も安静だなんて知ったら、クラちゃんは退屈がるわね」

苦笑して、閉まったままの扉へ目を向ける。
その部屋で眠る少女は、未だ目覚める気配がなかった。






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