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09


バイトに行きたくないなんて私にとっては珍しい事だ。休もうか悩んだ末それだとなんだか負けたような変なプライドが邪魔して自分の頬を叩く。足取りは重いし、どんな顔していいのかもわからない。それでも好きなのは変わらない。でも、もうすぐ踏ん切りをつける時かもしれない。好きなのは勝手だ、と佐藤さんには啖呵をきったが諦めるのも私の勝手だ。だって、もうすぐ私は、

『相馬さん。今までありがとうございました。』

「え、名前ちゃんいきなりどうしたの!?あー、もしかして受験だったりするからやめるっていう話か。前にいってたよね。」

『はい、前から決めてましたしそろそろそんな時期かなと。頑張っていい所に就職したいし大学も頑張らないと!』

「…佐藤君の事は?」

『それもバイトと共にやめます。最初から私はここをやめてしまう前に言わないより後悔するより、って言っただけですし。踏ん切りつきました。それも含めて色々ありがとうございました。色々むかつきましたけど相馬さんのおかげで色々踏み出せましたから。』

「名前ちゃん…、君はよく頑張ったよ。偉い偉い。」

『相馬さんに褒められるんなんてっ、』

「なんでよ!俺って結構君に甘いと思うんだけどな。」

『色々便利だからじゃないんですか?仕事を変わりにやってくれるとか、まひるから守ってくれるとか。』

「まぁ、それもあるけどさ。でも、本当に気にいってるんだよ。俺に出来る事があったらなんでもいいなよ。バイトを辞めても勿論ね。メールでも電話でもいいからね。」

相馬さんが頭をなででくれる。佐藤さんの手つきとは違うのになんだか懐かしくて寂しくて私はまた泣いてしまった。もうシフトの時間だってのにおさまらなくて困る。今まで我慢していたのかもしれない。頑張ったよ、なんて優しい声で言われたらなんだか今まで頑張っていた事が報われた気がした。そのまま相馬さんに抱きつきたくなる。

「おい、なにやって、相馬っ!お前何泣かしてんだよ。」

「俺じゃなくて佐藤君のせいなんじゃいのかなー。それにもういいじゃない。名前ちゃんはもう佐藤君のこと好きじゃないんだって、ね?」

『(好きじゃないっていうか、)そ、その私もうバイトをやめるんです。だからそれと一緒に佐藤さんの事もきっぱり諦めます。ちゃんと気持ちを聞いてくれて、今までありがとうございました。八千代さんとの事頑張ってください。』

「そ。それでさもう佐藤君は轟さんに告白したし名前ちゃんは諦めたんだよね。だったら名前ちゃん、俺と付き合わない?」

「はぁ?」

『な、なにを言っているんですか。また人の事をからかってるんですか?』

「からかってないよ。」

『じゃあ、佐藤さんへの仕返しをしてくれよう、って事ですか?私好きになるのは諦めましたけど別に佐藤さんが嫌いな訳じゃないんですよ。そりゃ、無神経のへたれだとは思いますけど。』

「案外怒ってんじゃねぇか。いや、悪かったけどよ。」

「違うって。え、仕返ししてほしいならやるけどさ。言ったでしょ。気にいってるって。」

『罠?』

「信用ないなー。」

日ごろの行いだと思う。というかこの色々あった一部始終をしっていて当事者たちが揃っているのによくここで告白なんてできるな。まぁ、少し佐藤君への当てつけもあるかな、なんて笑顔でいう。怖い、そしてやっぱりか。だから別に嫌いじゃないのだ。悲しいけど佐藤さんは最後までいい人だった。さっきも謝ってくれたし普通に接しようとしてくれた。私がただ勝手に好きだっただけだ。なんだかまた、悲しくなってくた。俯く私の顎を相馬さんが持ち上げる。その拍子に佐藤さんに凄い力で引き寄せられる。今、今…キスされた?

『そ、相馬さん…、』

「はは、佐藤君引っ張るのが遅かったね。もうキスしちゃった。ねえ、俺と付き合わない。佐藤君みたいに鈍感でもヘタレでもないし。これ以上君に悲しい顔はさせないつもりだよ。なんで佐藤君が睨むのかな?」

「…こいつは俺のだ。」

『は?』

「なんで、佐藤君は轟さんが好きなんだろ?だったら関係ないじゃない。僕たちがなにになろうが、そうなろうが、」

「俺は、名前が…き…だ、」

「え?聞こえないよ。」

「…っ、俺は名前が好きだからお前にはやらねえ。わかったか相馬。」

『…え。』

「わぁー、それ今いうの佐藤君。だってよ、名前ちゃん。」

今彼はなんて言った?だって佐藤さんは八千代さんが好きで、私は私は…。驚きで涙がひっこんだ。好きって言った?好きって。彼が私を、これなんだ夢か。大丈夫?なんて相馬さんが私の目の前で手を振る。2人して私をじっと見ている。なに、これ私の返答待ちなの?だって色々ありえないでしょ。

『ちょっーと、すみません。』

「「ぐっ!!」」

『痛いですか、2人とも。』

「っ痛いに決まってんだろ!?告白時にぶん殴る女が一体どこに居んだ!」

「佐藤君がこんなに怒鳴るなんて、初めてだよ…。それになんで俺まで殴られんの?痛い、なんで。」

『夢じゃないんだ…。でも八千代さんは、』

「名前ちゃんの想いが伝わったんだよ。全く世話がやけるよ二人とも。明らかに佐藤君途中から轟さんより名前ちゃんが、痛いよ佐藤君!」

『そ、そうなんですか?』

「そうだよ。なのに安心するとか妹だから、とか馬鹿みたいに自分の中に理由つけてさ。おまけに轟さんに告白するなんて本当に、いたた!佐藤君酷い!」

『私を、』

「よかったね、名前ちゃん。」

佐藤さんが今まで悪かったな、やめんなよ、と私の頭を撫でながらいった。また泣く私に2人は困ったように笑った。始めてみた、珍しいと写メとってる相馬さんを蹴る。佐藤さんが怒ってくれたが後で送れ、と言ったのは聞こえなかった事にしよう。でも、いいんです。嬉し涙だから。諦めなくてよかった。ようやく私の思いはみのったのだった。



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