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空涙の裏側
第三話〜隊服と試合とマヨネーズ〜




朝誰かが部屋の前にいる気配がして 目が覚めた。
急いで服と髪を最低限整える。
髪は爆発してなかったから服を軽く整えただけだけど。
あと外れかかってたヘッドフォンをちゃんと装着しなおす。

『おはようございます。・・・副長ですか?』

副長の気配のような気がした。

「入るぞ」

ガラッ

「起きてたのか」

『いえ。今気配がして起きました』

昔からそうだった。
人の気配がすると 眠れないし眠っていられない。
それのお陰で助かった事は何度もあるけどさ。

「起こしちまったか?悪いな。後1時間ぐらいで皆起き始めるぞ。試合は朝食の前だ。じゃあな」

ピシャ

言いたい事だけ言って出て行きやがった。

「佐樹は副長が嫌いですか?」

…別にそう言うわけじゃないけど。

「そういえば情報の収集…というか遊びに行きたいのでプログラムを回線にはなしてもらえます?」
『了解。あんまり長い間留守にしないでよ?』
「分かってます」

パソコンを立ち上げて画面いっぱいに広がるFDの顔に軽く手を振って、電話回線に繋げる。
行ってきます、とヘッドフォンから聞こえてきたので行ってらっしゃい、と返してそのままFDとの通信は切れた。
・・・さて、何をしようか。


***

道場にて、数時間後 佐樹は沖田と竹刀を片手に向き合っていた。
ギャラリーには局長、副長。と、その他大勢の隊士。
一つだけ、一つだけ聞きたい。警備とか大丈夫なのかということを。

「それでは、始めっ!」

その言葉と同時に沖田さんが間合いを詰めた。
目の前で竹刀が風を斬る音が聞こえる。早いだろう。
やっぱり一般基準でいうと強い。でも――――
ギリギリでそれをかわして沖田さんの後ろにまわりこむ。
動きを読まれて次の動きを制限されるのは面倒だ。

パンッ

竹刀で沖田さんの手首を瞬間的に強く押して竹刀を落とす。ちなみに押した場所は力を伝導する神経があるところ。
その動きの延長上で私の竹刀を沖田さんの喉へ突きつけた。

――――あくまで、「一般基準」なら、だ。


「!あ・・・勝負ありっ」
『ふぅ。では、朝食を食べにいきましょうか』


「さすがだねぇ。おじさんは佐樹ちゃんの戦ってる所初めてみたけど…流石だ、動きが残像で残るレベルだったよ」

「「「『松平さん!』」」」

「いつからいたんですかィ」
「気づかなかったな」
「いつの間にきたんだ、とっつぁん」
『おはようございます』

「ん?佐樹ちゃんにコレを渡そうと思って」

そういって松平さんがもったいぶってに取り出したのは 黒い固まり。
所々に黄色い線が通っている。

『なんですか?コレ』
「制服だよ。女隊士用のなんてなかったからねぇ」

嫌な予感がヒシヒシとするんですけど。
そりゃもうぞわってするぐらい。

『女隊士用?って事はスカートってことですか?嫌ですよ、皆さんといっしょがいいです、戦いにくいし動きにくいしマイナスしかないじゃないですか!!』

第一スカートは苦手だ。
ズボンが多いからスース―するのが好きじゃない。
着物の足の自由度は結構好きなんだけどね…。

「えっ、似合うとおも『松平様?ちょっとこちらへきていただきたいのですが よろしいでしょうか?』…ん?」


***

the 残され組

隊士「制服の話で話がそれたけど 隊長に勝っちゃったな」
隊士「ってことは 森崎総隊長誕生かぁ」

隊士「それにしても むちゃくちゃ速くなかったか?」
隊士「だって 数秒で終わりだったしな」 
隊士「スゲーよな」

土方「おい総悟、お前手加減したのか?」
沖田「いや それなりに本気でいったつもりだったんですがねぇ。逆にこっちがかなり手加減されたみたいでさァ。まだ腕がしびれてやす」

…あの瞬間に手首の急所を強く押され、一時的な機能麻痺を起こていたのだ。
相当の技量である。

土方「これでお前より役職が上の奴が一人増えたな」
沖田「認めるんですかィ?土方さん」
土方「仕方ないだろうが。(誰かみたいに)問題児じゃなければいいけどな・・・」


***


ガラッ

一斉にこっちに目が向いた。
何処に視線がいっているのかと思えば…

「あれ?スカートじゃないんですかィ?」

皆の視線の先は 私の長いズボン。
男性は知らないよね、あの寒い服の履き心地とか。
今度穿かせてみようか、似合いそうww

『スカート?何の事ですか?あぁ、松平さんなら先程私と真選組の存在理由と活動内容と、ズボンとスカートの動きやすさの比較とその他諸々の資料をもとにとある議題について議論していたところ急に帰ってしまいまして…呆気にとられていたら このズボンを持って戻ってきて下さったんですよ、親切な方ですよね、本当に』

ニッコリと笑う。
が、何故か皆一歩下がった。
まあ昔からFDに「眼力あるんですからその眼で何かをじっと見つめたりしたら相手は居心地悪いかもしれませんよ、気をつけてくださいね」って言われてたけどさ。

まあこんな事は今どうでもいい。
私はお腹が空いている状況が嫌い。
この世で好きなのは睡眠と食事。たまーに戦い、って項目が入るけどほとんどそんな状態にはならない。
もう一度言う、お腹すいた。
もう皆自分の分は取って目の前にスタンバイ済みだった。
私も女中のおばあさんからトレイごとセットを受け取って机につく。
どうやら全員揃わないと食べ始めてはいけない決まりになっているのだと気付いて申し訳なく思ったので掛け声をかける。でもいい制度だねコレ。素晴らしい。

『それじゃ 朝食たべましょうか』

「「「「『いただきます』」」」」

ここで私は松平さんの言っていた‘マヨネーズ’について納得する事になるとは知らず。
ただ食事の幸せに浸っていた。

『いただきます・・・って土方さん。そのマヨネーズのキャップ壊れてるんですか?もの凄い量のマヨネーズがでてますけど』

凄い量だ…。
ん?マヨネーズ?まさか。

「ん?何言ってんだ。このくらいは普通だぞ」

止めて女の子がそれ食べてたら太る原因じゃん、って突っ込むレベルには眼に悪いと思った。
正直視界に入れたくなかった。ごめんなさい土方さん、無理です。
ってかコレだけ毎日食べててこの体型維持してるんだったら全世界の女子から恨まれるよ。

「佐樹、こんな犬の餌なんか見ちゃ駄目でさァ。目が腐りやす。ねぇ?NAME」
「んだと総悟ォォ。マヨネーズはそんなもんじゃねぇっ。なぁ?森崎」

私に振るの?
会話の中に無理矢理引きずり込まれた感が半端ではなかった。

『えっと・・・』

どうしろって?
どうしろってんだい?
この状況の打破策を募集します!
FD!どうしてこんな時に君はいないんだ!
全てを知る全能人工知能のFDなら気が聞くセリフの一つや二つは言えそうなんだけど。

『マヨネーズはコレストロールほかが高いから程ほどにしたほうが良いと思いますけど、結局は個人の自由ですから・・・ね』

私は中立の立場が好きです。
逃げ姿勢が基本。面倒な事大嫌いです☆
人間誰でもこういうもんだって(笑)

「曖昧ですねィ。こんなヤローに気なんて使わなくてもいいんですぜィ」
「何言ってんだ。マヨネーズは何にでも合う奇跡の調味料なんだよォォッ」

どうでもよくないかなそれ、とか思いながら味噌汁を飲む。
美味しい、身体が温まる飲み物は朝には最高だよね。
それよりもご飯に埃やら唾やら着いたらどうするんだよ、そう思いながら焼鮭を切り崩してほかほかのご飯と一緒に口に放り込んだ。塩加減が家庭の味っぽくて美味しい。
いい加減黙らないかな左と前の二人、ご飯に唾とか飛ぶかもしれないという可能性を考えてみよう、ね?
これと同時にちょっぴり殺気を放つ。この二人なら気付くだろう。
例え内容は伝わらなくとも。

「「・・・・」」

一応 静かになりました、マル。あれ、作文?
二人の顔の表情からもしかして殺気の量間違えたかと思ったが次に食べた卵焼きがやたら美味しくて幸せだったので考えることを止めて食事に集中することにする。
このご飯さえあれば私は真選組で仕事が続けられると思ったね。
家庭の味は久しぶりに食べたからかなり懐かしく感じた。


***



「そうだ!今日の夜は 佐樹ちゃんの歓迎会だ!」
「「「「よっしゃァァァ」」」」
『いいんですか?』
「おう!楽しみにしておけよっ!」




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