さざなみ、ゆらり(メイン)
目の前には真っ青な空が一面に広がっていた。白い雲がうっすらと流れている。
見慣れている空ではあるが、そういえば地面に寝転がって青空を仰ぐことはめったに無い。いつもと同じ空なのにいつもとは違う景色だ。
目を閉じれば浜辺に打ち寄せる波の音が聞こえ、爽やかな風が前髪を揺らした。
何も気にせず青空の下で寝る事がこんなにも気持ちよく穏やかなものだとは知らなかった。
不意に顔の辺りが影になったのを感じ、目を開けると眩しい青を背にこちらを覗きこむ顔があった。
「ふふっ、お昼寝?」
二コリと笑ったのはリンスだった。氷のたっぷり入ったオレンジジュースを片手に持っている。
強い太陽の光を浴びてキラキラと輝く色素の薄い髪が綺麗だった。
「つい気持ち良くてね」
「わっ、砂まみれだよ」
砂浜に何も敷かずに寝転がっていたため、背中や後頭部にサラサラとした白い砂がたっぷりとついていた。起き上がって軽くはたいていると、何かを思いついたのかにっこりと笑ったリンスが背中を押してきた。
「せっかく綺麗な海があるんだから」
「えっ?」
背中を押すリンスを一度振り返ってから波打ち際の方に目を向けたルーペはギョッとした。
浜の方から全身真っ白になった天パの少年が砂浜を蹴散らしながら全力疾走してくるではないか。
良く見たら全身が砂まみれになったケイトだった。どうやら埋められていたらしい。首から下が全て白い砂まみれだ。
波打ち際に崩れた砂山と爆笑するアヤ達の姿があった。
「ルーペさん!」
突進してきたケイトが目の前で急停止する。きめの細かい砂が舞った。
「背中砂まみれじゃないですか!」
「君は全身砂まみれだね」
「仲間ですね!じゃあ行きましょう!」
「え?」
砂まみれのざりざりした手にがっしりと腕を組まれ、ルーペは困惑した。ケイトの言っている意味がわからない。
いや、本当は彼がこれから何をしようとしているのかは手に取るようにわかっていたのだが、海パン一丁で砂まみれになっているケイトに対して、ルーペは涼しげな軽装とはいえ普段着だ。
「いやいや、俺はいいよ」
「何を言っているんですか!」
砂まみれの少年は腕を離す気は無いようだった。
さらに悪い事に波打ち際から先ほどまでアヤ達と共にケイトを埋めていたであろうゼノが駆け寄ってきていた。今まで見た中で一番いい笑顔だ。
「おい大変だ!砂まみれじゃねーか!」
腹の立つ笑顔と白々しいセリフだ。
驚くべき速さでここまでたどり着いたゼノは、ケイトがホールドしているのとは反対側の腕をがっしりと捉えた。
「いやいやいや、俺の事は気にしないでくれ」
「そんな訳にはいくか、仲間だろ?」
「そんな訳にはいきませんよ、仲間ですもん!」
両脇にいる海パン師弟は息ぴったりだった。
どれほど砂に足を引っ掛けて抵抗したところで、この体育会系の二人には全くの無意味だった。
駆けだしたゼノとケイトに引きずられ、抵抗の跡が虚しく二本の線となって砂浜に刻まれていった。
「行くぞケイト!」
「はいゼノさん!」
最高のコンビネーションにより、ルーペは海に投げ込まれた。突き飛ばされたのではない、投げ込まれたのだ。
激しい水しぶきがあがる。
「イケメン入りましたー!」
アヤが調子のいい掛け声をかけていた。
「水も滴るイイ男きたーー!!!」
続いてミリーが躊躇うことなく海に飛び込む。
急遽着衣水泳を余儀なくされたルーペは、ずっしりと重くなった服に顔をしかめた。
立ちあがってみれば水面は腰までの高さで、あれほどの水しぶきを上げたというのに、すぐ近くをカラフルな魚が泳いでいる。
びしょ濡れになったルーペをゼノが腹を抱えて笑い、ケイトは頭から沈んで全身の砂を落としていた。
波打ち際を見れば、ジュースを飲んでいたリンスが笑顔で手を振ってきた。その隣ではクロムが無表情でアイスを食べている。
「アヤ!あんたも入りなさいよ!」
「ぎゃー!私はいいって!ちょ、ぎゃーー!!!」
ミリーに引っ張られ、アヤも頭から海に飛び込んでいた。
「クロムは一緒に混ざらなくていいの?」
いつの間にか投げ飛ばしバトル(明らかにケイトの圧勝)に発展していた海中組を見ながら、リンスは隣で座り込むクロムに目を向けた。
「いや、いい」
波打ち際で優雅にアイスを食べていたクロムに迷いは無かった。
さざなみ、ゆらり
Title by No News Is Good News
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