花と君とワルツ 3




無我夢中で走って校舎裏まで来ると段差になっているコンクリートへ腰をおろした。目が熱い。溶けそう。

瞼を落とすと次から次に涙が零れて頬を伝うのがわかった。やってしまった。それもあんな部員が見ている前で。

うまく隠せてたのになあ。肝心なところでいつも自分はツメが甘い。


好き、だと、大石は言った。


大石にしてみればほんの軽い、なんてことない気持ちだったのだろう。そうだとしても今の自分には、キツイ。
もはや瀕死の状態だ。


でもだってそうだろう!
俺の欲しい好きはたった一人、あの子にしかあげないくせに、それでもお前は俺を好きだと言う。

違う。違う、そんな好きはいらないんだ。


欲張りでごめん、わがままでごめん。
『友達』の言葉に勝手に傷ついて、勝手に当たり散らして。
大石はきっと純粋に、ただ純粋に、俺を褒めてくれただけ。友達ならあそこは喜ぶべきところだったのに。



壊れてしまった、そう思った。


特別な、俺だけの、好きが欲しい。
鈍い大石のことだから気づいてはないんだろうけど。

ああ何してんだろ、俺。
ただ普通に喋ってて、話の流れで好きって一言言われただけなのに。いきなり怒鳴って逃げ出してきっと大石は驚いてる。

情緒不安定なやつだって思われたかな。それでもいいや。
この気持ちが届かないなら、いっそ変なやつだって思われて距離をおかれた方がましだ。


―――嘘。そんなの生きていけない。
だって隣にいるだけで、存在を感じるだけで幸せなんだ。なのにそれを失ってしまったら。


でも、じゃあ、この想いはどうすればいい?
そばにいれば必ずまだまだ大きくなるだろう、この気持ち。この手だけだと確実にもてあます。



「英二!!」
「っ!!」

突然名前を呼ばれて心臓が破れそうに暴れ出した。聞きたくない聞きたくない。
拒絶の言葉なんて言わなくたってわかるから、その声で、その唇で、どうか鋭いナイフを紡ぎださないで。

迫ってくる足音から逃れるように膝を抱えて縮こまった。

「英二…?」

肩に指が触れてびくりと震えた。

「ごめん、俺に好きって言われるのがそんなに嫌だと思わなくて、」

嫌じゃない、嫌じゃないよ。ただその言葉で俺の中の何かが壊れてしまっただけ。

大石は何にも悪くない、悪いのは踏ん切りがつけられずにふらふらしてる俺。触れられている部分がたまらなく熱い。

「顔、上げてくれよ…」

無理だよ、それすら嗚咽のせいでうまく言えない。
思いっきり泣いてるからぐちゃぐちゃだもん。これ以上みっともないとこ見られたくない。

「なあ、英二…」
「むり、も、ほっといて…!」

絞り出した声は嗚咽の所為で酷く聞き取りづらくて小さかった。早く、早く、この場からいなくなってほしい。

「…俺のこと…、嫌い…?」

逆だよ、逆。好きすぎてこわいくらい。
だけどそんなこと言えるはずもなくて、俯いたまま早く大石がどこかに行ってくれるようただひたすら祈った。


「……英二、聞いてくれ」

突然、肩に置かれているだけだった指に力が込められて、何事かと驚いた。
きっともう肩には手の形をした火傷ができてしまっているのではないかと思う。


「好きだ」

「っ!!」


何で、こいつは。
こうも無遠慮に人の心を引っ掻きまわすことができるのだろうか。他に好きな人が、付き合う人がいるのに俺を好きだと言う。

思わず振り上げた手は無意識に振り下ろされて、その掌からはパンッ、と乾いた音がした。
目の前の男の左頬は微かに赤く色づいた。

「ずるいよ、大石っ…!」
「ごめん、気持ち悪いよな。でも好きなんだ」


特別な好きなんて絶対にくれないくせに!それはただの気まぐれ?

なんて、なんてひどいやつだろう。

泣き顔なんて絶対見せないつもりだったのに、そんなことすらすっかり頭から抜け落ちてしまって。

「俺をからかって、そんなに楽しい?」
「え?」

止まらない。すべて吐き出してしまう。

「彼女いるくせに…!俺をからかってそんなに楽しいかって言ってんの!」

また涙がどっと出た。情けない。

「大石なんかきらい…、大きらい…!きらいになってやる、もん、っぁ」

いきなり抱きしめられて驚きで涙が止まる。でもはっと気がついて胸板を叩いて抵抗した。

「やっ、離せよっ、!」
「お願いだ英二、嫌いになるなんて言わないでくれ…!」
「こういうことは、彼女にでもしてやればいいだろ!」

悔しい、悲しい。こんなことを言わなければならない事実も、抱きしめられてこの上なく嬉しく思ってしまう自分も。


「彼女なんていない!!」


普段の落ち着いた大石からは考えられないほど大きな声で言われて抵抗する手が止まった。

「、え?」
「彼女なんていないよ」

言葉の意味が理解できない。少し体を離して顔を覗き込まれる。


「なんで英二がそんな風に思ってるのか知らないけど、俺が好きなのは、―――英二だけだ」

真剣な瞳に高鳴る鼓動を止められなくて、戸惑う。何でそんな顔してんのさ。

「ぅ、ウソだ!告白されてただろ、きのう」

そうだ、あんな可愛い子に好きだなんて言われて落ちない男はいない、だろう?
それはきっと大石も例外ではなくて。

「それできのうから様子がおかしかったのか…、…告白なんて断ったに決まってるだろ」
「!…なんで」
「だからさっきから英二が好きだって言ってるじゃないか!」

恥ずかしいんだぞ、と拗ねたように口を尖らせ顔を真っ赤に染める大石はとても嘘をついているようには見えない。
……信じていいの?俺を好きだって、


「英二がわかってくれないなら、わかるまで何度だって言う。

 ……英二、好きだ、…愛してる」


好きを飛び越えて、愛してる、なんて。
真っ赤な顔、微かに震える声、真剣な強い光を湛えた瞳。

ああこいつはほんとに、なんてやつだ。無遠慮に人の心を引っ掻き回して。

ばか、…信じるしか、ないじゃないか。



「俺も、好きっ、」
「…やった!」
「あっ、」

また強い力で抱きしめられる。今度は俺も背中に腕をまわしてぎゅうと抱きしめかえした。

どきどきいってるお互いの心臓の音に何だかようやく実感が湧いてきて、にやけるのをどうにも止められない。しあわせ。


「うあー、絶対俺いま顔真っ赤だ」
「真っ赤は、だめにゃの?」
「男の俺に顔赤くされて好きなんて言われても気持ち悪いだろ!?」

ははは、なにそれ。すげぇ今更だよ。

「たぶん俺も真っ赤だけど…だめ?」
「英二はありだよ、可愛すぎるくらい」
「じゃあ大石もありだよ」

いやそれは英二だからで、とかまだごちゃごちゃ言ってるから、そのうるさい唇を自分のそれで塞いだ。
するとさらに真っ赤になった大石。


ありですよ!









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3000打リク「青春してて大石が可愛い大菊(赤面して、英二の前でだけちょっと拗ねてみせる大石)」
実由木さま大変お待たせいたしました!;
がんばって盛り込んでみたつもりなんですが…ご期待に添えていなかったら申し訳ありません(;ω;)
素敵なリク頂いたのですが如何せん文才がなく…
でも楽しくて気づいたらすげえ長くなってました
両片思いってもえますよね\(^q^)/
英二がおかしいことに大石は最初から気づいていました
英二の異変に敏感な大石
タイトルはあまくてふわふわした感じをだしたかったのです
ちなみに英二は美化委員設定です
オリキャラ、オリ設定すみませんでした;

3000打ありがとうございました!

(090829芳アンカ)



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あきゅろす。
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