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改めて二人きりになった空間。

用意された茶器でさらりと茶を点てる佐紀を見つめながら、夜紗はふと口を開いた。

「なぁ、佐紀‥」

「なぁに?」

「どうなんだ実際、その‥祝言を挙げるって」

俯きがちな問いに佐紀はわざとらしく顔を上げた。

「遂に夜紗も色気付いたの?大人になったねぇ、佐紀お姉ちゃん嬉しい〜」

「子供扱いするな、馬鹿!」

「馬鹿じゃないもん、佐紀の方が年上だもん」

「そういう問題じゃなくて‥質問に答えろよ」

「‥‥」

鋭い視線に、佐紀もちらりと茶碗に落としていた意識を彼女に向けた。
猫のような瞳が値踏みするように夜紗を射抜く。

「多分何も変わらないよ、家に新しい女の子が来て、その子の家族も自分の家族になって、その子と仲良く暮らすだけ。それ以外は今まで通り戦姫のまま」

佐紀は言葉を切ると、鈍色の茶碗を夜紗の前にすっと近寄せる。

点てたばかりの茶は茶碗の中でくるくると白い円を描いていた。

「お嫁に行くより心細くはないよ、ひなも寂しくないって言ってくれたし」

どうぞ、と勧められるまま茶碗に一度だけ口を付けた。

茶の湯にはまるで造詣のない無造作な仕草だったが、小煩いはずの佐紀は何故か何も言わなかった。

正直好かない苦い味に眉を顰める夜紗に、佐紀は独語するように呟いた。

「‥本当はさぁ」

「うん」

「佐紀、紀之介と一緒になりたかったんだ。長浜に居た頃からずーっと、大好きな紀之介の奥方になりたいって思ってたんだ」

何と返そうか迷っている顔に自身も困ったのか、佐紀はひなには内緒ね、と当たり障りないような苦笑いをした。

「でも立派な大名になるか、誰かの妻になるかってどちらかしか選べないじゃない。佐紀、戦はさっぱりだけど一応戦姫だし‥今までやってきたこと全部丸投げ出来ないし」

畳に着く程の長い金髪が、俯いた仕草に合わせて畳の上を滑った。

「だから‥何て言うのかなぁ。戦姫になった以上、本当は選びようがないんだよね」

困ったように笑いながら、佐紀は溜息混じりにそんな事を言った。

「それは、解ってるつもりなんだ。俺もいずれ佐紀と同じ風になるって覚悟は‥ついてたから」


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