未成熟のアイリス
正則→夜紗 何だかスイーツ(笑)
※初婚時期が曖昧で解らなかった。
解る人いたらご指摘下さい。
※!注意!※正則の拝領した城が清洲になってますが、彼が三成・清正らと同時期に拝領したのは伊予今治城です!
普通に間違ってます、陳謝‥orz
その日、「話がある」という秀吉に大坂へ呼ばれた正則は、茫然自失と言った体で主君の前を辞した。
‥らしくない。
ふらふらと言うよりはぐったりと消沈して、遠目に見ても覇気がなく濃く落ちた影が見える。
端から見たらまるで父親に怒られた子供に見えるのかも知れない。
庭の松枝を折ったとか、佐紀辺りを泣かせたとかの罰。
だが、秀吉が語ったのはそんな予想も遙かに越える一言だった。
「藤吉郎さん」
「ん?」
正則と入れ違いに秀吉を訪れたねいが不思議そうに首を傾げる。
「市松を叱ったんですか?先ほど見かけましたけど、すっかり気落ちして‥」
よろよろと帰って行った我が子同然の青年の見えない背中と、目の前で書状をひらひら弄ぶ夫を見比べながらねいはふと気付いた。
「何か命じたので?」
「いや、縁談を斡旋しただけだぞ」
「あらまあ」
ねいは打掛けを捌いていそいそと秀吉の隣に座り込んだ。
「市松も立派な一国一城の主だからなぁ、嫁の一人も居らんと格好が付かんだろ」
「そうは言っても‥」
ねいの表情は驚きよりも憐憫が色濃かった。
母親代わりに子飼い家臣たちを育ててきた彼女は、彼らの機微にも通じていた。
正則の夜紗に対する感情は勿論、普段は彼を袖にする彼女が内心憎からず思っていることも。
だから今の秀吉の言葉も、手放しで祝えない複雑な想いを抱いてしまう。
「二人のことは分かっておられないんですか?佐紀とは勝手が違うでしょうに」
「そりゃあ、おなご二人を住まわせるのとは違うなぁ」
「藤吉郎さん」
真面目に答えて下さい、と厳しい目を向けるねいに、秀吉は困ったように頭を掻いた。
「夜紗にもいずれ佐紀と同じように「正室」は持たせなあかん。勿論市も同じだ。
ねいが言いたいことは解ってる、だがそれを気にかけていられる程豊臣家は小さくない。
んで、あいつらはその豊臣家を支える大事な柱。
他の大名衆と並んでいく為に立派な形を整えてやることは主たる俺の義務だろ。
‥今の俺は尾張の百姓じゃあない、近所の若い奴らの仲人をしてやるのとは勝手も変わっちまったんだよ」
そうして、秀吉はねいにぐっと顔を近づけた。
「そういう「羽柴」や「木下」の頃の匂いを忘れるのもよくない。
あっちを立てればこっちが立たんという奴だが、だったら要らんと立場を捨てられるほど天下人は甘くないからな。せめてねいだけは、変わらんで居てやってくれ」
「‥ええ、分かりました」
どう頑張っても三枚目な夫の笑顔に、ねいも仕方なしにそう答えた。
容姿ばかりは締まらない(正直ねいから見た秀吉の容姿は利家に完敗どころの話じゃない)秀吉の頭脳と弁舌はそれを補って余りある冴えを持っていた。
不満も納得も愛情も、ねいの感情を撫でて丸めてきれいな形に戻してしまう。
人の心の外堀をみるみる埋めて、反論する気を逸らしてしまう。
だが、懐かしい「羽柴と木下」の気風が「天下の豊臣」に覆されつつあるなか、秀吉の言葉は意外に本音なのかも知れない。
夫のいまいち決まらない笑顔に、ねいは何か惜しいものを感じながら頷いた。
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