2 ちょっとした悪戯を思いついた浮薄な表情で、頭の後ろに組んだ手をおもむろに解いて身を起こす。 垂らした釣り糸に食いつくように、夜紗は高虎を睨みつけた。 「馬鹿にするな‥っ!?」 言い掛けた途端彼女の腕が引かれ、視界が大きく揺れた。 「何を‥!」 焦る夜紗を高虎の腕がしっかりと抱き留めて離さない。背後から捕らえるも、 (まぁ予想通りではあるが)あまりの拒否反応に思わず苦笑が漏れた。 「そんな強張らないでくれよ‥それにしても夜紗は細いねー‥腰なんてこのまま折れそうだ」 「この‥何処触って‥」 そのとき無遠慮に伸びた手を掴んだ指先が驚くほど力なく、震えている事にふと気がついた。 態度と真逆の弱々しさ。 こちらから表情は窺えないが、衣越しに伝わる熱が彼女の感情を如実に表していた。 「本当なら世の女性はこういう類の悩みで眠れなくなるものさ。それを知らない夜紗は可哀想だと言っている」 「戦姫がこんなもの知る必要はない」 「誰がそんなこと決めた?」 吐き捨てるような夜紗に間髪入れずに高虎は問い返した。 「君だって、ほら」 逃げを打つ背を追い詰めるように。 大きな掌が彼女の肩からなだらかな胸の双丘を伝って体を這った。 「っ‥!」 夜紗は声を飲み込んで切なげな息をつく。 無意識の内に高虎の胸に背を預け、それで窺い知れた彼女の表情は色よく上気して、高虎を高揚させるのに十分だった。 「取り繕って避けていても結局持つものは持ってる。あぁしかし夜紗はそういうしどけない姿も美しいね」 「‥知るか、この変態」 顔を背け露わになった首筋に顔を埋める。 「なぁ、夜紗。お互いこの無聊を慰め合わないか‥?」 何気ない口振りで高虎は耳元に告げた。 無粋に伸びた掌も強引な腕も、夜紗が気付いた途端に彼の全てが優しさを伴って自身を捕らえていた。 「夜紗が拒む理由は山とある、それは理解してるさ。でも俺はこんなにも君が愛おしい」 小さく囁いて、ほんの僅かに頬に触れるような感触。 「俺は‥っ」 反駁しかけた瞬間、ぱっと腕が解かれて夜紗は解放された。 「高‥虎?」 呆気に取られたような、飲み込めていないような顔で夜紗が高虎を顧みる。 「うん?」 首を傾げた高虎は先程の熱い言葉とは別人のようにへらへら軽い笑みを浮かべていた。 普段夜紗が鬱陶しげにあしらうのと同じ姿のはずなのに、どういう訳か目の前の彼は違って見える。 それは高虎の変化ではなく彼女自身の変化によるものだとは、気付く由もなく。 半ば茫然と高虎を見つめる夜紗に高虎は擽ったそうに破顔した。 「そんな熱い目で見ないでくれよ、攫って帰りたくなるだろ」 「そんな真似許すか、大体こんなこと、周りに知られたら‥」 何を言われるか‥!と声を上げた夜紗は、ふらりと腰を上げた高虎にもしつこく言い募った。 袖を引かれる思いに嬉々としながらも、それを隠して嘆息する。 「許されなくて構わないさ‥」 囁き混じりに振り向いたその顔が、再びあの情熱的なものを浮かべていた事に夜紗は言葉を継げなくなった。 きょとんとした年不相応の幼い反応に笑みを深めて高虎は続けた。 「いずれ夜紗の方から俺に攫われに来る。必ず‥ね」 身を屈めて、暗示ににも似た口づけを額に落とす。 「じゃ、御機嫌よう。奥方とお幸せに」 ‥いつか来たるその時まで。 細い糸を引くように、静かな本音を潜めて高虎は夜紗の元を後にした。 花言葉→「純粋な誘惑」 夜紗がまだ処女だと気付いた途端に理性吹き飛んだ。 好きすぎてやった、後悔はしていない。 ‥ごめん。(´・ω・`) 2010/03/17 劉斗 [*前へ][次へ#] [戻る] |