その他二次創作の部屋
キョン「戯言だけどな」4
何だ何だ? ドッキリか? 世界ドッキリ大集合なのか?

「い……五つ子?」

呆けた様に口から飛び出した、俺の第一声にソイツらは声を上げて笑った。全く同じ声で哄笑するモンだから見事なくらいにそれはサラウンドして辺りに響く。
一人が笑っているようにも聞こえるし、五人全員が笑っているようにも聞こえる。顔を見れば同じように口を開けちゃいるが、果たしてその中に一人だけ物真似をしているだけで声を出していないヤツがいたとしても俺には判別出来ないだろうな。

「五つ子。五つ子か。なるほど、そう言えるのかも知れないな」
「いやいや、そうは言えない。我らはそれぞれ産んだ女が違うだろう」
「だとすれば我らは何の関係も無い、ただの同じ容姿をした人間の集まりか?」
「それも違う。我らは同じ男と女の種から産まれた、同じ受精卵を分割して出来ているだろう」
「ならば、そう。我らを表現する言葉は無いと、そうなる訳だ」
「違いない」
「いいや、有る。我らは断片集」
「我らはフラグメンツ」
「我らは匂宮を統べる者」
「我らは一人」

ええい、息も吐かせず交互に喋るな。視覚では口を開いている女はそれぞれ違えど、聴覚では一人が勝手に自問自答しているようにしか聞こえない。目を閉じれば電波さんが喋っているのもおんなじなんだよ。

「……なんか、見た感じ手強そうだぞ、朝倉」

「手強いかどうかは分からないけど、でも確かに珍しい人間ね。遺伝子が同じ有機体が五つ並ぶ所なんて初めて見るわ」

まじまじと、まるで動物園に初めて連れて来られた幼稚園児のような面持ちで匂宮五人衆をそれぞれ観察する朝倉。まあ、無理も無い。俺だってこんなモン見るのは初めてだ。きっとさっきまでの俺も今の朝倉とそう変わらない表情をしていただろう事は想像するに容易い。
……ただ、美少女がやるのと違って絵にもならない間抜けな顔をしていたんだろうけどさ。こればっかりは仕方ない。

「我らが手強いか? 我らは手強いのか? さあ、どう思われる各々方?」
「各々方、などという言い方は辞めるべきだ。我らは複数で産み落とされた単一。ならば我がそう思えば、『我』もそう思っているだろう」
「我らは強くはない。強さ弱さなど『人喰い(マンイータ)』と『人食い(カーニバル)』にでも与えておけば良い」
「然り。我らは殺す。ただ殺す。ただただ殺す。殺しに強弱は存在しない」
「我は殺し屋。依頼人は秩序。十四の十字を身に纏い、これより使命を実行する」

ズザリ、ソイツらの足元が音を立てる。ここに来て初めて彼女達はそのシンメトリの美を崩した。思い思いのポーズを取る……ある者は右手を突き出し、ある者は上半身を低くしてクラウチングスタートの構えを取った。
途端、辺りに撒き散らされる重圧。空気が重くなったような錯覚に陥って、横隔膜を動かすのにすら意識を配らなければ窒息しちまいそうだ。
……これは、多分「殺気」ってヤツだ。本能的にそれを理解する。古泉辺りに言わせたら「分かってしまうのだから仕方ありません」とでも言うだろうか。

「お、おい、朝倉。本当に大丈夫なのかよ!? 信じて良いんだな、信じちまうぞ、なあ!」

「そんな目に見えてうろたえないでよ。大丈夫。だって、何をやっていても何が出来ても、それって所詮有機体のやる事でしょ?」

朝倉が俺にウインクする。緊張感もそっちのけでドキリと高鳴る俺の心臓は……ええい、節操無しにも程が無いか、俺。

「えっと……貴女達。悪い事は言わないから大人しくここは退いておくべきだと思うんだけどな。やらないで後悔するよりもやって後悔する方が良い、ってよく聞くじゃない? けどね、やる前から結果が分かってるのにそれをやっちゃうのは」

少女が手を胸の前に持っていく……ってどこから出したんだ、そのバタフライナイフは!? やっぱ持ってたのか、持って来てやがったんだな、朝倉っ!
ああ、その白い手の中でナイフの刃が玩ばれるたびに俺のトラウマがズキズキと刺激される! 脇腹が幻痛を訴えてくるのは、もうそろそろ去年のアレはスッパリただの悪夢だったんだと思って乗り越えちまっても良いんじゃないか?
人間は環境適応能力に優れた生き物って触れ込みだろ?

「それは玉砕、って言うの。だから――消えて貰えないかな? ……オ、ネ、ガ、イ」

可愛らしく言うも元殺人鬼。殺し屋に一歩も退かない迫力を、朝倉涼子はその言葉に存分に滲ませていた。

「ほざけ」

クラウチングスタートの修道女がその一言を皮切りに、爆ぜた。いや爆発したようなスピードでもって飛び出した。流石に想影真心のような目にも見えない速さではないものの、目にも留まらぬ速さなのは間違いない。一拍遅れで更に二人が走り出す。

「貴方は動かないでいいわ」

対して朝倉は泰然と。敵が迫り来るのを待ち構える。丁度俺と殺し屋シスターズの間を塞ぐように、二本の足でしっかり地面を踏み付けて。

「私が守る……なんてね。一度言ってみたかったのよ、これ」

あくまでも軽い調子で声に微笑まで乗せながら朝倉は言うが、しかし敵はもう目と鼻の先まで迫っている!

「朝倉!」

「だから、一々大きな声出さないでよ……分かってる」

第一次接触……はならない。修道女Aの突撃は見えない壁に阻まれたように一線を越えない! あれは……朝倉との戦いで長門が見せた障壁か! 空中に幾何学模様が描かれ、それは物理的な圧力では決して敗れない絶対壁!
必殺、宇宙人ATフィールド!!

「……何!?」

「ざーんねん。貴女にはその壁は乗り越えられないわ。ここはルビコン。有機体と情報体を別つ埋め難く深い溝よ」

悪戯っぽく舌を出す少女。も、匂宮五人衆は宇宙的不可思議パワーの断片を見せられてそれで退くような可愛らしい相手では無かった。ソイツは自身の前に壁が生まれた事を理解するや否や俺達に背中を向ける。
そこへ走り込んできたのは修道女BとC。二人は修道女Aの右手と左手に、それぞれ飛び乗る! そして高く高く舞い上がった。
仲間を即席のジャンプ台にしやがった。気付いた時にはもう遅い。障壁がその表面を幾何学模様で彩っている事が仇になった。計算し尽くされた飛距離でもって二人の女はその上を飛び越え……そこに朝倉が放った無数の槍が襲い掛かった。

「言ったじゃない。そこは越えられない壁だって。もう、人の話はちゃんと聞かないと、ね?」

その体を槍が刺し貫く、その寸前に二人の女は槍を叩いて強引に自分の体を移動させ……叩いた!? あのスピードで飛んできた槍を!? 何、これ!? どんな反射神経してればそんな真似が出来るっつーんだよ!?
俺が煩悶する、その視界で女二人は墜落する。流石にアレを回避して、しかも壁を乗り越えるなんて芸当は出来なかったらしい。避けるので精一杯だったのだろう事は見てりゃ分かるが、だがそれにしたって空中で一回転して足から降り立つ事が出来るなんざ……と、おや?
修道女DとEはどこへ行った?

「面白いじゃない、貴女達」

朝倉の姿がブレる。その体から更に二人、朝倉のそっくりさんが現れ……これ、なんてハーモニクス(Angel Beat参照。天使ちゃんマジ天使)? その朝倉二号&三号はそれぞれ左右に分かれて突進。ナイフを前に構えて低空飛行するその姿は見覚えが有るぜ。
ああ、俺の脇腹がまたキリキリと痛みを訴える。

「でも、ダーメ」

朝倉二号三号の向かった先には見失ったと思われた修道女DとE。真っ直ぐに襲い掛かる朝倉の凶刃を、ソイツらはなんて事もなくかわして更にその脇を擦れ違い様、膝を叩き込む! 朝倉分身の顔が歪んだ。
苦痛ではなく、愉悦の笑みの形に。
瞬間、轟く爆音。耳の奥で鐘を何度も突かれたような金属音が鳴ってやがる。除夜の鐘にはまだ一日早いぞ、こんにゃろう!

「分身なんて疲れるじゃない。有機体相手なら爆弾の方が効率が良いわ。情報操作もお手軽だし?」

な……なんて事をサラっと言いやがるんだ、この性悪宇宙人は! 一切の躊躇、手加減無しとか心底コイツが味方で良かったと胸を撫で下ろす俺だ。でも、出来れば長門が良かったなあ、とかは口にしたら刺されそうなので黙っておく事にする。
分かっていたが再確認。朝倉涼子マジ怖え。

「……面妖な」

煙の中から転がり出て来るのは……まあ、アレでやったとは俺も思っちゃいない。多分、朝倉もだろう。だが、ダメージは少なからず有ったようでその服は所々焼き解れていた。赤く滲んでるのは、あれは血か? 至近距離での爆発でありながらあんだけの被害で済んだのは褒めるべきだろうが、しかしそれよりも人間離れが酷過ぎて言葉も無い。

「面妖? ねえ、同じ遺伝子情報で構成された人間が五人も会するのは、それは面妖って言わないのかな? 私、有機体のその辺は余り詳しくないのだけれど、それって私が知らないだけで割とよくあったりする事?」

減らない軽口。いや、それこそが朝倉が朝倉たる証左なのだろうが。でもって軽口と軽口の合間にも情報操作に必要な詠唱はしっかり行ってるってんだから宇宙人ってのはほとほと敵に回すモンじゃない。
ふむ、人の不幸見て我が振り直せ。宇宙人との付き合い方をそろそろ一考せねばならん時期に俺も差し掛かっているらしい。

「宇宙人……か。聞き及んではいたがこれほどとはな」
「狐面が言った事も満更虚言では無いらしい。これはヒトの手には過ぎた力だ」
「なるほど。世界を終わらせるというのも、この分では虚偽とも言い切れぬ」
「しかし、我らは殺し屋」
「世界の終わりなどに執心はせぬ」

匂宮五人衆は一度バックステップで俺達――じゃないな、朝倉から距離を取る。第一次接触はどうやら無事やり過ごしたようで、しかもこっちの実力は見せ付けた形だ。正しく一蹴、ってな具合。
悪くない。停戦要求を切り出すなら、ここ。このタイミングだ。

「おい、匂宮さんとやら!」

叫んだ。何を言うか、なんてまるで考えちゃいないがそれでも。いーさんは俺に言ったんだ。戯言遣いの素質が有る、ってな。
だったら。それは武器だ。今は自覚が無くったって。刃渡りが一ミクロンであっても。宇宙人に未来人に超能力者に。おんぶにだっこじゃ何の為に俺が居るんだか分かりゃしねえ。
俺だって……俺だってSOS団の一員なんだ。戦って……いや、戦わないでやるさ!
五つの同じ顔が一斉に朝倉から注意を俺に移す。こりゃ、壮観だな。美人さん(ちょいと垂れ目気味)なのは間違いないが、しかしやっぱりその造りがコピー&ペーストしたみたいに判押しなのはちょっとしたホラーだぜ。

「何だ?」

その中の一人が口を開く。良かった。一応、連中にも代表みたいなのが居るらしい。戦隊ものでいうならレッドの立ち位置か。カラーリングを変えてくれてれば分かり易いんだが……いやいや、贅沢は言うまい。

「話をしよう」

殺し屋相手に「話をしよう」なんてどの口が言うんだか。この口か。あーあ、戯言だぜ、まったく。
ま、でも、どうせ戯言ならきっちり最後まで戯言してやるさ。何事も中途半端が一番ダメってのはよく聞く話だし、何よりウチの団長様はそーいうのが一番嫌いなんだ。
やらないならやらない。
やるなら最後までやり通す。
終わりまでグダグダであっても、それでも今年の文化祭で上映した「長門ユキの逆襲 Epsode 00」は一応完成作品になっていたように。途中で諦める、ってのはSOS団の性に合わん。

「話? ふむ、どんな話だ? 命乞いか?」

十字架がふんだんに刻み込まれた修道服に身を包む、女が眉を顰める。無理も無い。コイツらは殺し屋なんだ。対象と話をするなんて事は先ず無いだろうさ。

「間違っちゃいない。命乞いと、そう捉えてくれてもいいがどっちかっつーと停戦交渉だな。小学校の道徳の教科書にだって書いてあるだろ。争いは何も生まないんだぜ? って訳で俺はその精神に則(ノット)り『こんな事は止めませんか』と提案するんだが、どうだ?」

「ふん、箸に掛ける価値も無い」

「まあ、そう言うなよ。こっちだって出来る限り妥協はしてやるつもりなんだ。コイツの力は見たろ?」

親指を立てて朝倉を指し示してやる。この距離で、この暗がりで果たしてハンドサインが見えるのかどうかは疑問だったが、これくらいなら文脈から俺が何をしているかは察して貰える筈だ。

「信じて貰えるかどうかは分からんが、コイツ。朝倉涼子は俺のクラスメイトにして宇宙人だ。って、唐突にこんなん言われても納得は出来んよな。俺だってそうだったからその気持ちはよーく分かる」

「ちょっと、コイツっていう言い方はどうかと思うんだけど」

「頼むからちょっと黙っててくれないか、朝倉。謝罪なら後で幾らでもしてやるからさ」

もしも。この戦いを停めず見守るだけならば。俺はきっと後悔するだろう。勝っても負けても。宇宙人はその圧倒的な実力をもって殺し屋を殺し、殺し屋はその類稀なる才能をもって宇宙人と俺を殺す。
どっちに転んでも、人が死ぬのは免れない。
甘い事を言ってるのは分かってるさ。だけどな。俺はそもそも高校生なんだぜ? 人が死ぬ所なんて見るにゃまだ早い。見過ごす程に達観するなんて真っ平ご免だ。
だから借りる。あの力を。ちらっと、その片鱗を垣間見ただけだし、それが実際どういう手法でどういう手際で行われてるのかなんて分かっちゃいないが。
だけど、戯言なんて考えるよりも先に思考よりも早く口を突いて出るものだと思うから。

「ああ、話は変わるが『裏も表も(センスオブワンダラー)』って知ってるか? 『賽転遊び(コインフリック)』ってこっちでも良い。……ああ、その感じじゃ知らないみたいだな。仕方ないか。表向きはただの高校生で通ってるからな、ソイツは」

神様はさいころで遊ばない (Not play dice with God) 。
神様――涼宮ハルヒ。
確率じゃなく確立。奇跡じゃなく軌跡。世界は神の思うがまま、なんて俺は思っちゃいないが。

「ま、表向きなのか裏向きなのか。そんなのはソイツの二つ名が示す通り俺にはどっちかなんて分からん。多分、どっちでも大差無いんだろうさ、ソイツにとっちゃ」

「……何が言いたい?」

「アンタ達さ。さっきからずっと宇宙人相手に苦戦してるじゃねえか。俺から見たら善戦と言ってやってもいいが、どっちかなんざ戦ってるその当人が一番よく理解してるだろうさ。でな……」

ポケットから右手を引き出す。そこに握り込んでいた百円玉を俺は親指で宙に弾いた。何の意味も無い、その動作。攻撃なんかじゃ間違ってもない。これは言うなれば「攻劇」だ。

「もしもこの場にもう一人、何も出来ない振りをした、只の高校生に見せかけたプロのプレーヤが混ざり込んでるとして、それでもアンタ達は戦闘を続行しようとすんのかな、って思ってさ」

コインが地面で跳ねる音はひんやりと静まり返った駅前に、やけに大きく響いた。まるで新たなプレーヤの登場を告げる鐘の音のように、硬質の金属音は高らかに鳴った。
俺は大きく息を吸い込む。そして、目を瞑り口にした。


「ま、戯言だけどな」


本当に。心の底から、戯言だ。

「……どうする、匂宮さんよ? こっちは停戦したいと思ってる。正直、俺にはアンタ達と争う理由が無いんだ。一方的に因縁を付けられて命を狙われてる。しかも殺し屋って事はアンタ達にも理由は特に無いんだろ? だったらオカしくないか? それともそう思う俺がオカしいのか?」

コインはアスファルトの上で回り続ける。出る目は表か裏か。そんなのは知ったこっちゃないが、やるだけの事をやって運を天に任せるってのは案外清々しい気持ちになれるみたいでな。悪くないもんだ。

「殺し屋に理由を問うか、若人。それは肉屋になぜ肉を売るのかと問うているのと同じ事よ」
「正しく。我らは頼まれれば殺す。それゆえ殺し屋」
「平たく言えば目的は金だ。只の経済活動に過ぎぬ」
「戦争屋はなぜ戦争をする? それは戦争が経済活動であるからだ。そこで得をする者が在る故成り立つ。戦争屋という商売が生まれる」
「殺し屋は商売。匂宮の者にとって人殺しが一番適性が有るが為に行っているに過ぎぬ」
「だが、適性は全てに優先される」
「然り。最もその者の才を利用出来る職に就くは道理」
「我らは殺し屋」
「信条も無く理念も無く正義も無く未練も無く後悔も無く同情も無く分別も無く美学も無く未来も無く身上も無く道徳も無く常識も無く」
「有るは殺戮の雑技のみ」

ニヤリ、頬が緩むのを抑えられない。……ソイツが聞きたかったんだよ。

「何が可笑しい、『裏も表も』?」

その勘違いを引き出したかった。その目的を聞き出したかった。そして匂宮五人衆、断片集(フラグメント)。アンタ達は即席の戯言遣いにまんまとしてやられたって訳だ!
大勢は決した。これでもう、覆らない。ターン交代。こっから先、チェス盤の支配者は俺だぜ?

「アンタ達の負けだ。匂宮亜片。閾値。羽靴。えけて。緒琴さん。これ以上はやるだけ無駄ってな」

「……何?」

「だってさ」

狙いを見抜かれたら、それはボードゲームの世界じゃ負けなんだ。

「アンタ達はこの戦いで利益を得る事は出来ないじゃないか」

経済活動。そう、コイツらは言った。だったら利を説いてやれば良い。理詰めで話せば、話して通じない相手じゃないのはここまでのやり取りでよく分かった。だったら後は詰め将棋。得意分野での戦いに持ち込んじまえば、殺し屋相手だって戯言は戦える。
なるほど、人類最弱とはよく言ったモンだと思うよ。いや、マジで。
この技術は扱う人間が弱ければ弱いほど、その真価を発揮するってワケだ。

「ここでアンタ達が俺を殺して果たして人類最悪に幾ら貰う契約になってんのか、そこんトコは知らん。破格ではあるかも知れんが、けどそれにしたってご利用は一回だ。払ってたとしても十回分には届かんだろうと思う」

修道女達は答えない。だが、沈黙はこの場合は一番やっちゃいけない行為だろ。それはこのまま言い包められるのを是としているようにしか俺には思えん。その気はないだろうが、だが心のどこかでは思ってるはず。引っかかっちゃいる。そうだよな。
戦いの目的、利益ってその根本を俺は揺るがしてやったんだから。

「さて、商売ってヤツはリスクが付き物だ。どんな商売だってリスクのハイローは有れ、基本的にはそこんとこを免れない。殺し屋ってのはハイリスクハイリターンなんだろうと、この辺は想像するしか出来ないんだが。
でさ。俺なりに考えてみた。殺し屋にとってのリスクってなんだろう、ってな具合でさ。まあ、そんなん頭を捻る程でもないよな。専門家相手にご教授するのは些(イササ)か気が引けるが。
それは……もう分かるよな。返り討ちって危険性さ。
さっきまでの戦いでこっちの戦力は少しばっかり理解出来ちゃいると思う。いや、これは思いたい、だな。楽観視は俺の悪い癖だが、一朝一夕で直りそうにはないんでちょいと勘弁してくれ。でな。アンタらは専門家だしここはぶっちゃけて聞いてみるが……」

一呼吸。こういうのは溜めが肝心だ。引き伸ばせ、時間を。相手が焦れて次の言葉を催促する、その直前を見計らえ。タイミングの掴み方はハルヒと出会ってから一年半、散々鍛えられてきただろう、俺?
まだ……まだ…………後……二、一っ。

「匂宮五人衆。果たして俺達二人と戦うってのはそのリスクに見合うリターンが用意されてんのかい?」

恐喝にも似た威力交渉。朝倉の戦いは無駄になんてしない。何一つ無駄にせず、血肉に変えて血路を開く糧としてやる。

「アンタ達は強いからな。悪いが、こっちも手加減はしてやれそうにないぜ?」

戯言ここに極まれり。この調子で行くと「二代目戯言遣い」とか「戯言遣いの弟子」とか呼ばれちまうかも知れんな。
……やれやれ。


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